機関投資家のポートフォリオが示す「流動性の使い方」

ここで第2回の数字をもう一度、別の角度から見直してみましょう。

ハーバード大学基金のポートフォリオは、プライベートエクイティ41%、ヘッジファンド31%、上場株式14%という構成でした(出所:Harvard Management Company年次報告、2025年6月末時点)。

これを「リスクの取り方」の観点で見ると、確かに大胆な配分です。ただ、「流動性の使い方」という別の軸で読み直すと、見え方が変わります。

ハーバード大学基金の資産の7〜8割は、「すぐには現金化できないお金」です。プライベートエクイティの解約には数年単位の時間がかかりますし、多くのヘッジファンドにも、一定期間お金を引き出せない仕組みがあります。

これは、リスクを取りに行く配分であると同時に、「不便さの対価」を取りに行く配分でもあるわけです。

何百年と続く大学運営を支える基金だからこそ、流動性を一部手放しても困らない。その代わりに得られるプレミアムを、長期で積み上げていく——これが彼らの強みです。

個人の強みは「自分のお金」を自分の都合で動かせること

ここまで来ると、個人投資家にとっての「武器」が、いままでとは違う角度から見えてきます。

機関投資家は、規模も知識も圧倒的です。ただ、彼らが運用しているのは「他人から預かったお金」。当然、「他人の都合」に合わせて動かす必要があります。ハーバード大学基金では毎年5〜5.5%前後の取り崩し(出所:Harvard University Financial Administration「Harvard's Endowment」)。また、ヘッジファンドでは解約可能時期に投資家からの換金圧力が生じ得ます。つまり、「いつ、どれだけ動かすか」を自分の判断だけで決められるわけではありません。

一方で、個人投資家は、「自分のお金」を「自分の都合」で動かせます。例えばお子さまの大学資金として10年後に使うお金、老後資金として20年後に使うお金——それぞれの用途に合わせて、「いつまで動かさないか」を自分で決められるのです。

これこそが、個人投資家ならではの「武器」と言えるでしょう。

考えてみてください。10年後にしか使わないお金に、本当に「今日売りたい」というニーズはあるでしょうか。「いつでも売れる」というのは、ある場合においては便利に働きます。ただ、前のセクションで見た通り、その便利さは、低めのリターン(または価格変動リスク)と引き換えに手に入れているものであることを忘れないでいただきたいのです。

長期で動かさないと決めたお金まで「いつでも売れる」商品に置いておくと、本来なら取れたはずの「不便さの対価」を、みすみす取りこぼしてしまう可能性があります。

「使う時期が決まっているなら、それまでの間、一部は流動性の低い商品に置く」——機関投資家が大規模に実践していることを個人も自分のスケールで応用できる、と思うと資産運用の幅がグッと広がる気がしませんか。