アドバイザー問題の根深さ

議論において提起されたのが「中立的なアドバイザー」の必要性だ。この認識は、金融経済教育を中立・公正な立場から官民一体で推進する公的機関として2024年4月に設立されたJ-FLEC(金融経済教育推進機構)の役割にも織り込まれた。同機構は金融機関から独立した立場で個人の相談に応じる認定アドバイザー制度を設け、アドバイザーの数は2025年9月末時点で1314人に達する。とはいえ、金融業界が資金も人材も提供する組織である。そして消費者はと言えば、「アドバイザーに対価を払う文化が日本にはまだ根付いていない」と島田氏は指摘する。

例えば、数千万円の定年退職金の運用先を迷う人にファイナンシャルプランナー(FP)への相談を検討するかと聞いても、「有料でプロに頼むほどではない」との答えが返ってくるのはよくある話だ。それなのに銀行などで手数料の高い投資信託に一括で投じているケースも珍しくない。

例えば、販売手数料が3%の投資信託を100万円分購入する場合、購入時点で3万円が差し引かれる。それだけの手数料を支払うなら有料でも専門家に相談する方が合理的だが、その有用性がなかなか理解されないのが実情だ。

また、販売担当者が「金融アドバイザー」「資産運用アドバイザー」と名乗ることにも懸念があると島田氏は言う。セールスとアドバイスが分離されていない日本の現状は依然として大きな課題だ。

例えばオーストラリアでは、同じ金融機関内でもアドバイス専門職と販売職が明確に区別され、アドバイザーは顧客に最善の助言を行う業務体系が確立している。一方、日本で退職金などの大口運用の受け皿となっているラップ口座などは情報開示が進まず、ブラックボックス化しているのが現状だ。割高な手数料が徴収されている懸念もあり、特に「リスクを取りたくない」高齢者にはコストに見合わないサービスとなっている可能性がある。

 

 

出所:金融庁「資産運用高度化プログレスレポート2022」41ページよりモーニングスター・ジャパン作成
 

さらに高齢化社会において深刻なのが、個別商品や税務の壁だ。FPは税務の助言ができず、個別の金融商品を挙げることもできない。一方で、税理士は資産運用の専門知識を持った人はまだ少ないという隙間が生じており、確定拠出年金の一括・年金受け取りの最適解などをワンストップで助言できる体制の不足が指摘されている。税制優遇制度の充実やネット環境の整備から、若い世代の活用が進む一方、高齢者が身近な金融機関で安心して「出口戦略(取り崩し)」を相談・計画できる選択肢は、今なお取り残された大きな課題の1つだ。

 

モーニングスター・ジャパン
「投資信託事情(JITRI)」チーフ・エディター
島田知保(しまだ・ちほ)氏

国際基督教大学卒。食品会社、宇宙科学研究所(現JAXA-ISAS)、衆議院議員秘書を経て1995年より投資信託の専門誌「投資信託事情」(1959年発刊、2024年4月号にて休刊)発行人・編集長。2008年、事業譲渡によりイボットソン・アソシエイツ・ジャパンに移籍。2024年5月イボットソン会社分割によりモーニングスター・ジャパンにて活動開始。

プロ向け、一般向けを問わず、1990年代から一貫して長期・積み立て・分散投資やESG・社会的責任投資をテーマに活動。個人投資家の交流会「コツコツ投資家がコツコツ集まるタベ(東京)」共同幹事、「個人投資家が選ぶ!(旧投信ブロガーが選ぶ!)Fund of the Year」運営委員など、投資リテラシー向上のために個人投資家に向けた任意の活動も行っている。

2012年金融審議会「投資信託・投資法人法制の見直しに関するワーキング・グループ」
2017年同「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」
2016年より同「市場ワーキング・グループ」(いわゆる「老後2000万円問題」報告書)委員
2022年より同「顧客本位タスクフォース」メンバー

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本連載は、投資信託専門誌『投資信託事情』(1958年創刊、2024年休刊)の発行人・編集長を務めた島田知保氏への取材をもとに構成しました。島田氏はモーニングスター・ジャパンに在籍、金融審議会の各ワーキング・グループへの参加など、制度設計にも深く関わってきました。現在はwebサイト『モーニングスター・ジャパン』コンテンツ編集長として活躍しています。