「接客に腹を立てるお客様」が増えていた
このところ接客に腹を立てるお客様が増えている――。
永瀬藍子だけでなく店長までが共通してそんな認識を持っていた。
スーパーの経営環境は年々難しくなっていた。円安・物価高でもなかなか値上げができず、利益率を下げてしのぐことが多かった。最低賃金の引き上げや人手不足もあって人件費も上がっているため、店はできるだけ少人数で現場を回そうとしていた。
従業員一人一人の業務負担が増えた分、お客様対応がおろそかになりがちで、顧客満足度がじわじわ下がっているという指摘もあった。
また、ここ半年くらいで経験の長いスタッフが減ったことも、接客レベル低下をもたらしていた。
経験の浅いスタッフが、お客様対応でミスをしてしまっても責められない。だが、毎日のようにトラブル対応に駆り出されている永瀬藍子は、この状況に正直うんざりもしていた。
――とはいえ、今日のシフトだと、自分が出ていくしかないか……。
永瀬藍子は決心すると、吉村美枝に言った。
「私が行きます。吉村さんはここで品出しをお願いします」
ぱっと晴れやかな顔になった吉村美枝を尻目に、永瀬藍子は駆け足でレジへ向かった。
「年金をたんまりもらってるくせにセコいことするな」
レジに到着した永瀬藍子が見たのは、驚くべき光景だった。
レジを通過した先に、荷物をまとめるためのテーブルが置かれていた。そのど真ん中で、一人のお客さんが仁王立ちになって、佐藤敏雄という男性パート従業員に詰め寄っていた。
――まずい、佐藤さんに暴力を振るうかもしれない……。
永瀬藍子はそう思い、とっさの判断で、お客様と佐藤敏雄の間に割って入ると、言った。
「お客様、本当に申し訳ございませんが、落ち着いてください」
「落ち着いていられるかよ! お前誰だ?」
「現場の責任者です。お客様、一体どうされましたか?」
「どうもこうもねえよ。こいつが、俺のことを、侮辱したんだ」
「侮辱?」
永瀬藍子が怪訝な表情をうかべる。
ただ佐藤敏雄はぶんぶんと首を振る。
「侮辱なんて、とんでもない」
ただ、お客様は納得しなかった。
「ウソつけ。俺に向かって、『年金をたんまりもらってるくせにセコいことするな』つったんだよ。とんでもねえ嫌味だろ。こっちはたった月7万円の年金でやっとかっと暮らしているのに!」
「そ、そんなことは言っておりません!」
永瀬藍子の横で、佐藤敏雄が困惑しきった表情で言った。
●お客様はなぜ怒っていたのでしょうか? また、どうやってこの場を丸く収めたのでしょうか? 後編:【「たった7万の年金で暮らしていけるかよ!」70代カスハラ客が絶叫…「ビニール袋を大量に取る客」にスーパー店員が取った「驚愕の行動」】にて詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
