相棒との穏やかな生活に影

結局周吾はなりゆきで犬を飼うことにした。犬の名前は白い見た目から“大福”になった。

周吾は皿や餌、リードなどを近所のホームセンターで買った。安いものを選ぶつもりだったが、会計はすぐに1万円を超えた。

家に戻って改めて考えると、餌代だけでも月に数千円はかかる。ペットシーツやおやつ、シャンプーなどの消耗品まで含めれば最低でも月に1万円近くは必要になりそうだった。どうやら犬を飼うというのは、想像以上の出費を伴うらしかった。

しかたなく、周吾は家計簿をつけることにした。これまでのようにぞんざいにお金を使うわけにはいかなかった。

当然、大福の世話は慣れないことばかりで大変だった。しかし、大福の世話にあくせくしているうちに時間はあっという間に流れた。周吾は気づくはずもなかったが、それは定年退職以来はじめて感じる充実感だった。

 

そんな暮らしにも徐々に慣れ始めたある朝のこと、周吾は大福の散歩に出かけようと家のどこかにいる大福を探した。いつもなら呼べばすぐにやってくる大福だったが、その日は呼んでも一向に姿を見せなかった。

「おい、大丈夫か?」

大福がいたのは台所だった。昨日まで元気だったはずなのに、ぐったりと横たわって動かない。周吾が近づくと、大福は苦しそうに顔を上げ、浅い息をくり返していた。

周吾は頭が真っ白になった。

●妻を亡くし、長男との関係も冷え切ったまま孤独な日々を送っていた周吾。そんな中、偶然拾った白い犬・大福との暮らしにようやく小さな充実を見いだすも、その矢先に思わぬ異変が起きてしまう…… 後編【「ずっと間違っていたのか」年金暮らしの老人が動物病院でさらした醜態…向き合うべき家族への罪】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。