周吾が放っておけなかった存在

翌日周吾はいつものように近所のスーパーにいた。腰は痛むが、家にいても時間の流れがやけに遅いので、特に買い物をするものはなくとも、スーパーへ行き、ぶらぶらと散歩するのが日課だった。

その道中、道ばたの電信柱の陰に何かがうずくまっているのが目に留まった。ゴミが落ちているのだと思ったが、近づくとそれが小さな犬だと分かった。毛は泥で黒ずみ、体は細かった。

首輪がついているかどうかは見ることができなかった。周りを見渡しても飼い主がいるようには思えない。

犬はこちらをチラリと見るが、まったく警戒する様子も逃げる様子も見えない。ただ力なくこちらを見てきているだけだった。

「……腹減ってるのか?」

周吾はそこでスーパーで買った食パンをちぎって犬の前に置いた。すると犬はすぐにそれを食べてしまった。周吾はもう一度食パンをちぎり、犬に食べさせた。犬は軽く尻尾を振ってまた食パンを食べた。

犬が少し元気を取り戻したことを確認すると、周吾は公園へと歩いた。だがそのあとを犬がついてきた。

「何だ? まだ腹減ってるのか? 悪いが、これは俺の飯でもあるんだ。だから渡せないよ」

そう言って歩き出したが、犬はお構いなしについてきた。公園のベンチに座っても犬は少し離れた場所に座り、じっと周吾を見ていた。

「もうパンはやらんと言ってるだろ」

周吾がそう言っても犬は動こうとはしない。このままだと家にまでついてくるに決まっている。どうにかして追い払う必要があると思ったが、汚れた体を見るとそんなこともできなかった。どうしてか、放っておく気にはなれなかった。

周吾はゆっくりと立ち上がり、家路についた。当然犬も周吾のあとをついてくる。周吾は観念して犬を家へと招き入れ、風呂場で汚れを洗い流した。

古いタオルで拭いてやると、だんだんと元の白い毛が浮かび上がった。犬は心地よさそうに尻尾を振っていた。

「どうせ1人しかいないんだ。好きにしろ」

言いぐさはぶっきらぼうだったが、独りぼっちの1人と1匹――そんな境遇が今の自分に重なったのかもしれなかった。