息子からの厳しい言葉
その夜、焼酎をちびちびと飲みながらテレビを見ていると携帯電話が震えた。画面を見ると長男の裕太の名前が表示されていた。
基本的に裕太が周吾に連絡をしてくることはないため、周吾は少し緊張しながら携帯を耳に当てる。
「もしもし、父さん今大丈夫?」
「あ、ああ。何だ、どうかしたのか?」
「母さんの保険の書類、まだ役所に出してないだろ? 確認の電話がこっちにも来たんだよ」
裕太の指摘で手続きをするように言われていたことを思い出した。
「そうか、すぐに出すよ」
電話の奥でため息が聞こえた。
「分かってるなら早くしてくれ。父さんのせいでいろんな人が迷惑をしてるんだ」
久しぶりに電話をしてきたと思ったら説教か、と怒りと寂しさを感じた。
「……分かってる」
「それと一昨日、母さんの墓参りに行ったんだ」
「……そうなのか?」
「墓の周りが少し汚れてたし、水も汚くなってた。家から近いんだからちゃんと墓の手入れくらいやってくれ」
返事が出てこなかった。幸代が眠っている墓は家から歩いて5分ほどのところにある。そこまで裕太は来ておきながら、うちには寄らなかったのだ。
「あんたのために母さんがどれだけ尽くしたと思う? 死ぬまで何も母さんのためにしなかったんだから、墓の手入れくらいやってくれないと母さんが浮かばれない」
裕太の言葉に顔が熱くなった。
「……要件はそれだけか?」
「そうだよ。書類は早くしてくれ」
それだけ言って電話は切れた。
小さいころから、裕太が自分を嫌っているのはよく分かっていた。サラリーマンをしているとき、仕事ばかりで家族の相手をしてこなかったし、仕事のストレスを幸代や裕太にぶつけるような態度を取っていたのも分かっていた。こじれにこじれてしまった関係は、裕太が50歳を過ぎた今も変わらない。
悪かったと思うことは何度かあった。だが周吾はそのたびに謝る機会を逃してきた。頭を下げれば自分が負けたことになる。そんな気がしてしまい、言葉を飲み込む代わりに不機嫌な態度でごまかしてきた。
その結果が今だった。
酒を飲む気もなくなり、周吾は寝室に向かった。布団に横になり、真っ暗な天井を見上げたが、なかなか寝つくことができなかった。
