ゴミ袋の中身をぶちまけた
「あれは、誰だ?」
スナック「シフォン」の前に、若い男性が立っていた。上は黒いTシャツ、下も黒いズボンを履いていて、まるで人目を忍んでいるかのようだった。
誰かに見られていないか確かめているのだろうか、男性はさっきからキョロキョロ何度もあたりを見まわしている。
「ヤバい、見つかる……」
見つかったところで、何もやましいことはないのだが、何となく妙な予感がして、敏雄はとっさに、近くの自販機の影に身を隠した。
「あいつ、何をしているんだ?」
若い男が、大きなゴミ袋を二つ、両手にぶら下げているのが見えた。
と、敏雄が見ている前で、若い男は、いきなりゴミ袋の中身を「シフォン」の前にぶちまけたのだった。
ゴミ袋におさめられていた、食べ残しや、紙くず、空き缶などが壁にぶつかり、ドアの前に散乱する。
と、若い男性はスマホを取り出すと、「シフォン」の前に散乱したゴミを、動画で撮影しはじめたのだった。
我慢しきれなくなった敏雄は、自販機の影を飛び出した。
「おい、何してる?」
敏雄が声を掛けると、若い男は慌てたあまり、スマホを取り落としそうになった。
一瞬だけ、スマホを両手の上でお手玉していたが、なんとかキャッチすることに成功し、スマホを地面に落下させずにすんだ。
ただ、若い男が手間取っている間に、敏雄は距離を詰めていた。
「おい、なんでゴミをぶちまけたんだ? 嫌がらせか?」
敏雄が若い男に詰め寄る。胸ぐらをつかんでやりたかったが、やりすぎにならないように注意していた。
ただ詰め寄るだけでも効果があった。若い男はわなわな震えながら目を地面に落とした。
その瞬間、敏雄の脳に、ぴんと来るものがあった。点と点、線と線がつながり、一つの明確な輪郭を描いていく。
「『シフォン』の悪口をばらまいていたのは、お前なのか?」
