「隣の部屋に、クソジジイが住んでて」

管理組合が注意すると言ってくれたので、柳原壮一郎はひとまず安心していた。

それから2週間ほどの間は何事もなかった。小川が注意した効果か、夜の騒音もぴたりとやんでいた。柳原夫妻にとって久方ぶりにぐっすり眠れる夜が訪れていた。

と、そんなとある日の夜だった。

「佐々原ユリ、か……」

その日、妻の佳世子が同窓会で出かけていたため、壮一郎は家でひとりくつろいでいた。あまりにも暇だったせいで、ふと、インフルエンサーの名前を思い出した壮一郎は、その名前を検索してみることにした。

「佐々原ユリ」が運営するユーチューブチャンネルはすぐに見つかった。

「いったいどんな動画を配信しているんだろう……」

たまたま、ライブ配信中だったので、壮一郎はほんの好奇心から、その動画を見てみることにした。

と、その瞬間、壮一郎は衝撃を受けた。

動画の中で、「佐々原ユリ」は、チャンネルを一時的に休止することを告げていた。

その理由として、佐々原ユリの口から語られた内容が、柳原壮一郎の理性をうちのめしていた。

「隣の部屋に、クソジジイが住んでて、そいつに動画配信を邪魔されてるんだよね……」

――こんなの出鱈目だ! 濡れ衣にもほどがある……。

穏やかな性格の壮一郎だったが、さすがにこの説明には怒り心頭だった。

思わず隣の部屋に怒鳴り込もうとさえ思ったが、なんとか思いとどまった。自ら率先してトラブルを拡大するのは損だと思ったからだった。