終わりの始まり
寝室で準備をしていると再び誠子の怒声が聞こえてきた。
「夜ご飯の準備はいつやるんだい! 菓子だっていつまでも出てこない! どうしてあんたは言われないと動けないんだ!」
ちょうど準備が完了したので靖子は荷物を持って居間に向かった。
居間では相変わらず孝弘が何か言ってるが靖子はもうそんなものは見る気もしなかった。靖子は旅行用のボストンバッグを床に置いて誠子たちを見据えた。
「もう出て行かせてもらいます。夜は皆さんで好きにやってください」
靖子の表情から本気度を感じたのか誠子は少しだけたじろいだ。
「な、何を言ってるんだ? こんな途中で放り投げるようなことをしていいわけないだろ……⁉ おかしなこと言ってないでさっさと準備しなよ」
「いつも偉そうに注意してきたってことはお義母さんがやられたほうが皆、満足すると思いますよ。私はもうこの家には不要でしょう」
すると孝弘が慌てて誠子を怒る。
「ほ、ほら見てみろ! 靖子だって限界だったんだよ……!」
だが、すかさず靖子は孝弘をにらみつけた。
「これでどう? 私がいなくなったらお義母さんは私をいびられなくなるからあんたとお義姉さんの勝ちよ。嬉しいでしょ?」
賭けのことがバレたと分かって、孝弘は引きつりながら口角を上げた。
「な、何を言ってるんだ?」
「私が傷つくことまであなたたちにとっては遊びだったんでしょ?」
靖子の言葉に孝弘は黙り込んだ。靖子は次に固まっている恵に目を向けた。
「お義姉さんのおかげで踏ん切りがつきました。本当にありがとうございます」
「……ほ、本当にこれでいいの?」
明らかにうろたえている恵に、靖子は笑顔でうなずく。
「ええ。すべてはお義姉さんのおかげです。でも血って怖いですね。お義姉さんは本当にお義母さんにそっくりですよ。人を見下して偉そうに言ってくるところなんて特にね」
靖子はそれだけ告げて家を出た。駅までは歩くとだいぶ距離があったけれど、目の前がとても開けて見えた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
