孝弘と恵の不穏な会話

もう何も聞きたくないし感じたくなかった。次は孝弘にもっと厳しく言おう。そうじゃないとこちらの気持ちがもたない。

深呼吸をしながらお茶菓子を用意していると、恵と孝弘が話している声が耳に入ってきた。

「……何やってるの? もっとちゃんと母さんに言わないとダメじゃない。あれじゃいつまでたってもいびりをやめないよ?」

「……それは分かってるけど母さんが強情なんだよ」

ひそひそと話しているので靖子は作業を止めて耳をそばだてた。

「あんたが舐められてるからそうなるの。ちゃんと靖子ちゃんを庇わないとダメ。分かった?」

「……ああ」

話の内容から孝弘の行動は恵が裏で糸を引いているのが分かった。どうしてこんな余計なことをするんだと怒りが湧いてきた。

「明日までがリミットだからね。それまでにやめさせないと私たちが負けて、大輔が全額持っていくんだよ。それでいいの?」

「……もっと楽に勝てると思ったんだけどな」

「あんたがだらしないからでしょ」

そこから2人が話している内容が耳に入ってこなくなった。「全額」や「勝てる」という単語から脳内で賭け事という言葉が浮かんだ。

姉弟で賭けていた。誠子のいびりを止められるかどうかを賭けて楽しんでいた。

その事実を知った瞬間、靖子はその場にへたり込んでしまった。涙も出てこないほどの衝撃だった。孝弘の行動は迷惑だと思いつつも優しさだと感じていた。

落胆の感情から徐々に体が怒りでいっぱいになっていった。もうこんなところにいる意味はない。そう思って靖子はお菓子をそのままにして寝室へと向かった。