レシートを並べて見えたもの
母が帰った翌日の夜、すっかり熱の下がったはるかは机の上にレシートを並べていた。
コンビニで買った飲み物、学食代、教科書代、駅前で友人と入った店の会計。何にいくら使ったのか見返しているうちに、熱が出る前までの自分が、ずいぶん気軽にお金を使っていたことが分かる。必要なものと、流れで払っていたもの。その違いが、今は前よりはっきり見えた。
「これ、毎月は無理だな」
独り言をこぼしながら、はるかはスマホのメモに固定でかかる出費を書き出した。
定期代、食費、日用品代。そこまで入れたところで、数字が現実味を帯びる。
母に言われた言葉を思い出し、はるかは深く息をついた。それから求人アプリを開き、大学の帰りに寄れそうな場所を探し始める。
数日後、キャンパスの最寄り駅近くのカフェで、店長らしい女性が履歴書を見ながら言った。
「週に3回くらいなら入れそう?」
「はい。4、5限の授業がない日は入れます」
「テスト期間は?」
「事前に相談させてもらえたら」
「うん、そのへんは学生さん多いから大丈夫」
思っていたより落ち着いて答えられて、はるかは少しほっとした。
次の日の朝、改札前で待ち合わせていた友人がひらひらと手を振りながら駆けてくる。
「昨日、面接どうだった?」
「たぶん受かった」
「ほんと? よかったじゃん」
「まだ分かんないけどね」
「でも、もう安心した顔してるよ」
そう言われて、はるかは初めて自分でも気づく。数日前までの切羽詰まった感じが、少しやわらいでいた。
採用の連絡が来たときには、うれしいより先に肩の力が抜けた。
「バイト、決まった」
夜、母に電話で報告をすると、意外にもあっさりした返事が返ってくる。
「そう。よかったじゃない」
「うん。今度はちゃんと無理しないようにするから」
「それならいいよ」
短いやり取りのあとで電話を切る。机の上にはまとめ直したレシートと、明日の授業で使うノートが並んでいた。
開けたままの窓から夜風が入り、薄いカーテンがゆっくり揺れる。遠くを走る電車の音が途切れたあと、部屋には、シャープペンが紙を滑る小さな音が響いた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
