<前編あらすじ>
不動産会社でリーダーを務める36歳の佐藤は、13年のキャリアを持ちながら、賃上げブームで初任給が跳ね上がった新卒・河野との給料差がわずか3万円という現実に愕然とする。
若手への投資を優先する会社は、その原資を確保するため中堅層にサービス残業やコストカットを強要。連日の激務と変わらぬ手取り、そして若手の無邪気な言葉に、会社と仕事への誇りを失った佐藤の心には、修復不能な亀裂が入っていく。
●前編:【「思ったより夢がないっすね」新卒との給与差はわずか3万円…賃上げバブルのしわ寄せを背負わされた36歳中堅リーダーの虚無】
後輩の不始末で自分の時間が溶けていくジレンマ
「佐藤さん、河野の教育、もうちょっと厳しくできないか? あいつ、また契約書の特約を書き間違えてるぞ」
部長がため息をつきながら、私に責任をなすりつける。
私は無言で頷く。しかし、心の中では冷ややかに笑っていた。教育? 厳しく? そんなことをして河野が「メンタルをやられた」と人事部に駆け込めば、悪者にされるのは私だ。今の会社は、高いコストをかけて採用した若手を「宝物」のように扱い、代わりがいくらでもいる中堅を「使い捨ての部品」としか思っていない。
河野のミスを私が深夜までかかって修正する。河野が担当から外された困難案件が、私の元へスライドしてくる。仕事量は1.5倍に増えたが、給与明細の数字はピクリとも動かない。
むしろ、ストレスで増えた酒代と、睡眠不足を補うための栄養ドリンク代で、自由になる金は減る一方だ。
