さらば“期待の若手”たち…自分を救うために部下を切り捨てた日

私は、河野の手をゆっくりと、しかし力強く振り払った。

「僕の給料は、君と3万円しか変わらないんだ」

「え……?」

「その3万円の差に、この修羅場の代行代は含まれていない。責任を取るのが仕事だろ? 頑張れよ、期待の若手なんだから」

私は鞄を掴み、定時ちょうどにタイムカードを切った。

後ろで部長が「佐藤! どこへ行く!」と叫んでいる。河野がパニックで電話口に謝り倒している。それを背中で聞きながら、私はエレベーターに乗った。

翌日、私は13年勤めた会社に退職届を叩きつけた。

転職先は決まっていない。この年齢での再就職がどれほど厳しいかも理解している。だが、自分を削って他人の給料を支える「燃料」であり続けることに、私の魂はもう耐えられなかった。

退職の日、デスクを片付けていると、河野が冷ややかな視線を送ってきた。

「佐藤さん、無責任ですよ。僕らを見捨てるんですか?」

私は彼を見ず、心の中でつぶやいた。

(見捨てたんじゃない。俺が俺を見捨てないために、お前らを切り捨てたんだ)

駅へ向かう道すがら、私はスマホで求人サイトを開く。

「未経験歓迎、初任給30万円」

その文字が、嘲笑うように躍っていた。

私が13年かけて積み上げたプライドは、もう、どこにも居場所がない。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。