初枝との新しい距離感
入園式の日を境に、初枝が前のようにふらりと家へ来ることはなくなった。最近では、訪問前に康介を通して一言連絡を寄こすのが通例になっている。
相変わらず百合子への言動にはトゲがあるが、少なくとも表立って悪しざまにののしるような事態は起きていない。おそらく心から反省したわけではないのだろう。それでも、あのとき夫婦そろって反撃したことで、こちらの怒りが伝わったのだと百合子は思う。
「ねえそれ、もう3回目じゃない?」
午後のリビングで、百合子は洗濯物をたたみながら、ソファへ目をやった。康介と優斗が並んで座り、絵本を開いている。
「ゆうくんがこれがいいって」
「ゆうくん、これすき。おおかみとね、うさぎさんがね、なかよくなるんだよ」
優斗は絵本を抱えたまま、得意そうに言った。何度も繰り返し読み聞かせているため、すっかりストーリーを覚えている。
「ゆうくん、次から自分で読む練習してみる?」
「いや! パパがよむの! はやくよんで!」
「わかったわかった。パパが読みますよ」
百合子は小さな靴下の向きをそろえながら、2人を見て静かに微笑んだ。春のやわらかな風が吹き込むリビングには、康介の読み聞かせに混じって、時折優斗の笑い声と絵本のページをめくる音が響いていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
