<前編のあらすじ>
百合子は義母の初枝が予告なく頻繁に訪れては、育児や生活に口を出してくる日々に疲弊していた。初枝はかつて授かり婚を激しく非難した過去があり、百合子は心を許せずにいた。
園の規定で「親のみ参加」の入園式にも参加しようと、自分は親同然だと食い下がり、入園式の朝も初枝はセレモニースーツ姿で突然自宅に現れた。
さらに、百合子の服装を「安っぽい」と侮辱し、式に同行しようとする初枝。怒りを抑え込みながら、やっとの思いで初枝を振り切り、百合子たちは入園式に向かったのだった。
●前編【「その格好で行くつもり?」アポなし訪問が当たり前…入園式当日に義母が放った信じられない言葉】
康介のひと言に救われて
「間に合ってよかったな」
受付を済ませ、優斗を担任に預けると、康介が小声でささやいた。
「うん……」
会場の前方には小さな椅子が並べられ、その後ろに保護者用の席が整然と置かれていた。周りの母親たちの服装が目に入った瞬間、朝、初枝に言われたことが不意によみがえる。
「安っぽい」「子どもの品格まで疑われる」
気分が落ち込みかけたそのとき、康介が隣で何気なく言った。
「そのスーツ、似合ってるよ」
百合子は顔を上げた。
「え?」
「いや、朝はドタバタしてて言う余裕なかったから」
「ふっ、そうだよね。ありがとう」
式が始まると、担任の教諭が順に園児たちの名前を呼んだ。心配をよそに優斗は、はっきりと返事をした。
「ああ……よかったぁ」
「練習した甲斐があったな」
式が終わって親子ごとに動き始めると、優斗は百合子たちを目ざとく見つけ、駆け寄ってきた。
「ママー! ゆうくん、おへんじできた!」
「うん、すごく上手だったね。ちゃんと見てたよ」
続けて康介も息子の頭を撫でた。
「かっこよかったぞ」
息子は少し照れたように笑って、それから百合子の顔を見上げた。
「ママも、かわいいよ」
百合子は思わず目を丸くした。朝から胸に張りついていたざらつきが、そのひと言でほどけていく。
「ありがとう」
涙ぐみながらそう答えると、優斗は満足したように百合子の手を握った。康介も隣で穏やかに笑っている。そのぬくもりを確かめながら、百合子はこの日を迎えられてよかったと、素直に思った。
