老後不安に向き合うFWB施策――退職給付制度へのアプローチ
さまざまな統計から従業員の老後不安が年々高まり続けていることが明らかになっています。将来のライフイベントとして老後の生活設計を最重要視する回答は多く、老後不安を感じる人の割合も過去10年で大幅な増加傾向にあります。
一方で退職金水準は長期的に低下傾向にあり、近年のインフレ環境により老後資金の実質価値の目減りや長寿化の進展も相まって資金枯渇への不安にもつながっています。
反面、自身の退職金額を把握していない従業員も多く、情報不足が不安を増幅させています。老後不安は個人の問題にとどまらず、企業の人的資本形成にも影響を及ぼす構造的な課題であり、企業が向き合うべき重要なテーマとなっています。
この課題について、退職給付制度におけるFWB施策として2つのアプローチを考えてみてはいかがでしょうか。1つは従業員の「現在の不安を軽減する」アプローチ、もう1つは企業による「将来に向けた制度改善」のアプローチです(図3)。
図3:退職給付制度に対するFWB施策(2つのアプローチ)
前者は定期的なセミナー開催などを通じて制度情報や投資教育を提供し、従業員の「分からない」を解消する取り組みです。企業が迅速に着手できる、最低限必要なアプローチといえるものです。
後者はより長期的・構造的に退職給付制度のあり方を再考するアプローチです。雇用の流動化やジョブ型への移行など多様化する働き方に対応した給付設計、インフレ耐性を持つ制度への見直し、確定給付企業年金(DB)制度の剰余金を活用した給付増額、現在の金融経済環境に応じた効率的な財政運営の検討などが挙げられます。
特に財政運営においては、インフレによる給与増がDB等の他制度掛金相当額の増加や企業型確定拠出年金(DC)の拠出限度額の縮小を招く可能性につながります。
しかしインフレ・金利上昇局面では予定利率の引き上げも可能であり、その場合、DB等の他制度掛金相当額は減少し、DC拠出限度額は拡大します。給与上昇の影響と予定利率上昇の影響が相殺されるため、企業型DCや個人型確定拠出年金(iDeCo)による従業員の自助努力を阻害しない制度運営が可能となるのではないでしょうか。
こうした取り組みは退職給付制度をより良い方向に導き、従業員のFWBを高めることにつながります。企業が従業員の老後を支える責任を果たすには、退職給付制度全体のリスクマネジメントと意思決定プロセスを支えるガバナンス体制の構築が不可欠です。
強固なガバナンス体制の下で制度のあり方を検討し、従業員に明確に示すことが人的資本効果の最大化につながります。こうした一連のプロセスを整理していくことがFWB施策の一環となります。ぜひこれらのアプローチを検討してみてはいかがでしょうか。
ディレクター 岡本 洋一氏、
WTW-タワーズワトソン Health & Benefits部門
ディレクター 中島 明子氏

