一人っ子の相続に潜んでいた“思わぬ落とし穴”

初めてお会いした翌週には私の実家まで足を運び、「自分が元気なうちに、財産承継の手続きなどを済ませておきたい」という父の意思を確認。そして、私がきちんと把握していなかった相続財産をヒアリングした上で、専門家に手配して父の公正証書遺言作成の手続きを進めてくれたのです。

事前に相続財産のリストを見せられた時、父の財産が意外に多いことに驚きました。従兄弟の和馬から伯父の施設費用を立て替えた話を聞いて内心戦々恐々だったので、父には内緒でほっと胸をなで下ろしました。

その時点で既に小笠原さんは“ナイスアシスト”を1つやってのけました。父が祖父から相続した狭い土地があったのですが、私はその存在自体を知らず、また、父もすっかり失念していてそのまま放置されていました。この土地はまだ相続登記がなされておらず、父と3人の従兄弟に相続権がありました。小笠原さんが紹介してくれた司法書士の人が従兄弟に共有持ち分の相続を放棄してもらい、名義を父に一本化することができました。私は一人っ子なので相続は楽勝だと思っていましたが、意外なところに落とし穴が潜んでいるのだなと実感しました。

認知症対策として勧められたのが、私が父と任意後見契約を結ぶことでした。父はいざという時には私が後見人になって自分の財産を管理してほしいと考えていて、その希望を実現するには任意後見制度を活用するのが最も確実だということでした。

「現在の法定後見制度だと、後見人に指定されるのは多くが弁護士や司法書士などの専門家です。しかも、一度選任されたら、よほどのことがない限り、後見人の交代はありません。ただ、こうした使いにくさは今まさに見直しの対象になっていて、近い将来もっと柔軟な運用ができるようになります。また、仮に任意後見契約が実行された後に坂本さんがご病気になるなどして、お父様の後見人を務めるのが難しくなった場合は、家庭裁判所に申し立てて契約を解除することもできます」

認知症の親を持つ同僚や友人から法定後見制度がいかに厄介かを聞かされたことはありましたが、その時点ではしょせん他人事でした。しかし、いざ自分が当事者となると制度への向き合い方が180度変わります。小笠原さんの話を聞いて制度の改正要綱案のニュースにも目を通すようになりました。

小笠原さんの勧めで、父と一緒にメインバンクの銀行に出向いて代理人カードも作りました。「これは、“お守り”だと思ってください。万一、お父様が急に倒れたという時も、代理人カードがあれば、お父様の口座から当座の資金を引き出すことができます。実際にはそうならない方がいいわけですが、坂本さんが代理人カードを持っていてくれることはお父様ご自身の安心にもつながるんです」

父が認知症になった場合は口座自体が凍結され、代理人カードは使えなくなるそうです。そうはいっても、作れるうちに作っておくことがいざという時の備えになるわけで、“お守り”という言葉には説得力がありました。

「家族に任せきりにしない」天啓のような出会いで変わった父

小笠原さんとの出会いで一番変わったのは父です。MCI騒動以降、時折見え隠れしていた認知症の恐怖に伴う焦りや苛立ちのような感情がすっかり影を潜め、以前の穏やかな父が戻ってきました。出不精だったのが、今は週に半分は外出するようになりました。好きな映画や、友人たちとの食事などを楽しんでいるようです。

小笠原さんのサポートで気になっていた私への“申し送り”を済ませることができ、ほっとしたのでしょう。そんな父の姿を見ていると、最近記憶力の衰えが気になる私も、娘たちに迷惑をかけないよう、早めに小笠原さんに相談しておこうと思います。

「認知症の患者さんを家族に任せきりにするのはよくない、プロの知恵を結集して患者さんが最期まで気持ちよく暮らせる社会を創りたい」という小笠原さんに、このタイミングで出会えたのはまさに天啓です。小笠原さんには、今後とも父や私の良きアドバイザーでいていただきたいと思います。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。