<前編のあらすじ>

会社員の亜矢子は、過去に買い物をし過ぎたことが原因で家計管理を夫・和毅に握られてしまい、自由に使えるお金がない生活に息苦しさを感じていた。

ある日、フリマアプリで自分の持っているブラウスと同じものが売れているのを見つけた亜矢子は、クローゼットの不用品を出品してみることに。すると次々に商品が売れ、誰にも気兼ねしない自由なお金を手にする喜びを知った。

やがて亜矢子は、夫の不用品であるネクタイを無断で出品。さらに量販店で安売りされている衣類や日用雑貨を仕入れて転売する「せどり」に手を出すようになっていった。

●前編【「監視されてる気がして」買い物癖を咎められ家計を取り上げられた妻…オンラインで見つけた小さな自由

増える荷物に気づいた夫

食器を片づけ終え、亜矢子がシンクの水気を拭いていると、リビング側で物音がした。振り向くと、和毅が薄いビニールの切れ端をつまんでいる。透明で、端がギザギザに裂けていた。梱包材の残りだと、一目で分かった。

せどりで扱う商品は、和毅に見つからないよう私室で保管している。だが、いくら気をつけていても、痕跡は残る。彼の手にあるビニール袋も、処分したつもりでゴミ箱のふちに引っかかっていたものらしい。

「最近さ、やたら荷物が増えてない?」

和毅は切れ端を指先でひねりながら、亜矢子を見た。

「え、荷物って?」

「よく届くでしょ。それに段ボールとか、こういうゴミも多いし。亜矢子、何をしてるの?」

亜矢子は布巾を畳む手を止めないようにして、「ああ」と笑ってみせた。

「ちょっとポイントで買い物しただけだよ。期限切れちゃうともったいないでしょ」

言いながら、自分の声が少し高いのが分かった。

「何のポイント? 期限切れそうなやつあったっけ?」

「えっと、フリマアプリの。前に友達に教えてもらって……」

和毅は切れ端をゴミ箱に落とし、眉を寄せた。

「そういうの、怪しいサイトだろ」

「えっ」

「ほら、前にニュースでやってたじゃん。限定品買い占めて高く売るやつ」

「私、そんなのじゃないよ。ただの日用品だし――」

言いかけたが、喉の奥でブレーキがかかった。和毅は亜矢子の様子を意に介さず、別の方向へ話を滑らせた。

「そもそもトラブルになったら面倒だし、やめときな」

亜矢子は布巾を掛け終え、キッチンから出てきた。和毅の視線がテーブルのスマホに落ちるのが分かる。

「別に、そんな大したことじゃないって」

亜矢子は笑いを作り、スマホをさっと手元へ引き寄せた。画面は伏せたまま、指で端を押さえる。視線が泳いでいるのが自分でも分かるのに、止められない。

和毅は黙ったまま、亜矢子の手元を見ている。怒っているのか、ただ疑っているのか、亜矢子には判断できない。分かるのは、今ここで画面を見せたら、今まで積み上げてきたものが一気に崩れるだろうということだけだった。

「ほんとに、ポイントでちょっと買っただけだから」

亜矢子は同じ言葉を繰り返した。自分でも説得力が薄いと思いながらも、ごまかし続けるしかなかった。