大量の出品履歴を見た夫

ちょうど夕食の食器を洗い終えたとき、机の上の亜矢子のスマホが短く震えた。スマホを取りに向かうより先に、和毅の視線がそこへ刺さった。

「何、これ」

和毅がスマホを持ち上げ、画面を亜矢子の目の前に突き出す。ロック画面には、〈取引メッセージ:ブラウス、発送お願いします〉の表示。

「最近ずっと鳴ってるよね。発送って何」

「えっと、これは……」

「説明して。ほら」

亜矢子は心臓が早鐘を打つのを感じた。もう逃げ道がない。

「ロック外して。何のアプリか見せて」

拒めば余計に疑われる。亜矢子は親指でロックを解除した。

画面が開いた瞬間、和毅がすっと手を出し、奪うように受け取る。彼が素早くスクロールする画面には、大量の写真が並ぶ。カーディガン、ブラウス、スカート。未使用の靴下、ポーチ。どれも亜矢子が出品したものだ。

「……めちゃくちゃ取引してる。ポイントで買い物しただけとか嘘じゃん」

和毅の声が低くなる。

「しかも、仕入れみたいなことしてない?」

「それは……」

「これさあ」

和毅は指を止め、ある画像を拡大した。古い柄のネクタイ。

「俺のだろ」

顔を上げた和毅が鋭い視線を向けてきた。顔から血の気が引くのが自分でも分かった。

「捨てるって、言ってたから……」

「だからって勝手に売るのはおかしい。普通に窃盗だろ」

「窃盗、って……」

和毅ははっきり言った。

「だってそうだろ。持ち主の俺に何の相談もなしに売ってさ。しかも、知らないやつに住所を知られるなんて最悪」

「匿名配送だよ。お互い住所はわからない。コンビニでラベル出して、送って——」

「そういうのが怪しいって言ってるんだよ。値段交渉で揉めて、個人情報晒されて、家まで来られてとか。うちがそんなのに関わってるって思われたらどうするの。近所の人に見られたら?」

亜矢子は大きく息を吸って言った。

「別に限定品を買い占めたとかじゃない。ファッション関係の不用品と生活雑貨。月の利益だって数千円くらいで、ちょっとランチしたりする程度のお金だよ」

自分なりに必死に説明したが、和毅はスマホを机に置き、言い放った。

「転売ヤーみたいでみっともない」

その言葉に、亜矢子の胸がきしんだ。

和毅の頭の中には、悪質転売の見出しだけが貼り付いている。中身を見ようともしないし、亜矢子の言葉を理解しようともしない。

ふらつきそうになり、亜矢子は机の端を掴んだ。

「私は……自由にできるお金が少しでも欲しかったの。何をするにも監視されてる気がして、息が詰まって」

和毅は即座に返す。

「だからってこんなこと、まともな大人がやることじゃないだろ。世間体がある。夫婦として恥ずかしいよ」

それ以上、亜矢子は言葉を継げなかった。机の上のスマホ画面は、いつの間にかスリープモードに切り替わり、真っ黒になっていた。