<前編のあらすじ>

先輩の木田はお酒を飲むと気持ちが大きくなり、つい見栄をはってしまう性格。後輩の田中は、そんな木田の性格を熟知し、お酒を飲ませて「1200万円貸しつける」と書かれた契約書にサインさせてしまいます。先輩は契約書通りお金を貸さなければならないのでしょうか?

●前編:【「金1200万円を貸しつける」泥酔状態でサインした契約書に仕掛けられていた「後輩の罠」…騙された先輩に支払う義務はある?】

契約が成立するために必要な「条件」

私に向かって、契約書を交わした経緯について一通り話し終わった後、木田は「これどうすりゃいんだよ俺は……」と、泣きそうになりながら救いを求めた。だが、私には訴訟をするための知識や力はない。

私はあくまで後輩としてできる範囲でアドバイスを送った。

「難しい話は抜きにして……、結論から言えば払わなくていいのではと思っています」

「え!?踏み倒せってのか!?契約書もあるのに?!?!」と驚く木田。

驚くのも無理はない。契約書があれば履行しなければならないと誰もが思うはずだ。

だが問題は、その契約が果たして成立しているかどうかという点にある。

ドラマや漫画のように契約書さえ作成してしまえばこっちのもの、とはそう簡単にはならないのが現実なのである。

契約が成立するためにはいくつか条件がある。そのうちの1つに「当事者の意思能力」がある。意思能力とは、要するに自分の行動について正しく理解する能力のこと。これがなければ契約は無効となり成立しない。

例えば、契約書にサインしたのが幼児の場合とか、重度の認知症患者を騙してサインさせた場合などは、有効な契約とはならないわけだ。

では、泥酔状態にあった木田の場合はどうなるだろうか。記憶は辛うじて断片的に残っているようだが正常な判断はできていなかったといっていいだろう。この場合、木田は意思能力を欠いていたため、交わした契約書は無効だと考えられる。

私は先輩を救うべく、こういったことを含めていろいろアドバイスした。木田はすべて理解できたわけではなさそうだったが、「とりあえずはっきり断るわ!」と言って、その日は別れることになった。