「ライフデザインシート」で顧客の「想い」を明確にする

この支社体制への移行が、きらぼし銀行にとって大きな変化だったのは言うまでもなく、販売現場には少なからぬ戸惑いがあったのも事実。そのため移行の過程では経営陣が各支社を訪れ、その狙いやメリットなどを直接、説明して回ったという。その効果もあってか、支社体制は順調に浸透していき、「今では銀行全体になじんでいる印象です」と、当初は当事者として、後半は証券の立場で今回の移行を見てきた塩田氏は話す。

移行の完了からまだ半年足らずであるものの、すでに成果も出始めている。「やはり最大の狙いは富裕層のお客さまの開拓と関係強化ですから、まずは富裕層の先数増加をKPIにしていて、その数は確実に増えてきています」と川村氏。「先数を増やすためには活動量がカギとなり、現在は1日に10件、富裕層のお客さまを中心に接触することを目標にしています。従来は1日3件程度が精いっぱいでしたが、直近では平均で6件から7件ほどにまでなっています。まだ途上ではあるものの、すでに倍以上の活動量になっているわけです」

もちろん、単に接触するだけではなく、コミュニケーションを深める工夫も凝らしている。その1つが「ライフデザインシート」の作成で、顧客の属性、家族情報、資産の状況などをヒアリングし、CRMに蓄積しているという。「それだけであれば特に目新しい取り組みではないかもしれませんが、足元で力を入れているのがお客さまの『想い』をしっかり伺うこと。私たちが目指しているのはコンサルティング営業ですから、お客さまのお考え、目標が分からなければ、そもそもコンサルティングになりません。想いを伺う過程で見えてきた課題に対し、グループのさまざまなリソースの中から最適なソリューションを選択し、解決していく。それができて初めて、コンサルティング営業だと言えるのでしょう」(川村氏)。

今後はCRMに蓄積されたデータを分析し、最適なソリューションを自動的にレコメンドする仕組みなども模索しているという。前述の接触数に加え、このライフデザインシートの作成にも目標が設定されているが、「いくら成約したという結果だけではなく、そこに至るプロセスをいかに評価するかが重要だと捉えています」と川村氏は話す。

一方で、課題となっているのは潜在的な富裕層をいかに開拓するか。現状は銀行および証券の資産額で階層を分けているものの、法人としては取引があっても、そのオーナー個人との取引がほとんどないケースもある。現在は東京の地価が急激に上がっていることもあり、資産の大半が不動産という顧客も少なくない。

そうした潜在的な富裕層を開拓すべく、例えば法人担当と個人担当が同行するケースなども増えている。しかも、インフレリスクが顕在化しつつある今、法人オーナーにとどまらず、法人自体の運用ニーズも確実に増大しているという。東京という潤沢な地盤を有する同行だけに、富裕層ビジネスのポテンシャルはまだまだ大きいに違いない。

支社体制の導入によってその強化は着実に進んでいて、「目線が変わってきているのは確か」だと川村氏は手応えを語る。「単に商品を案内するだけ、あるいは法人担当であっても、単に貸出だけをすればいいといったマインドからは脱却しつつあります」

 

長期投資を根付かせることで「共通KPI」の好成績を実現

ここまで見てきたように、2025年度がきらぼし銀行、KLD証券にとって大きな転換点となったのは間違いない。併せて、きらぼし銀行の誕生以降に打ち出してきたさまざまな改革についても、着実に実を結びつつある。象徴的なのが共通KPIの「投資信託の運用損益別顧客比率」で、金融庁が公表したランキングでは、きらぼし銀行が地域銀行の中で第2位となった(2025年3月末基準)。同じくKLD証券も、地銀系証券会社の中では第3位となり、いずれも顧客にしっかりリターンを提供できていることが分かる。

その最大の要因は、「お客さまの保有年数が長くなっていることにある」と塩田氏は分析する。「しっかり長期投資を啓発してきたことに加え、商品についてもコストの低さや運用成績などをモニタリングしながらラインアップしてきた点が、成果として表れているのではないでしょうか。お客さまに喜んでいただいているのは確かですし、ご自身が満足されているがゆえに、ご紹介をいただいたり、ご家族の取引にもつながったりと、信頼関係が深められているという実感もあります」

川村氏も、「当グループでは『TOKYOに、つくそう。』をパーパスに掲げ、お客さまの課題解決(=利益の最大化)を目指してきましたから、その結果が数字としても表れたのは非常にうれしい」と話す。「ただし、それに甘んじることなく、利益が出ているからこそ、分散投資をお勧めするといったコンサルティングを今後も実践していきたいと考えています」

着実に次のステージへと向かっているきらぼし銀行とKLD証券。最後に、それぞれが目指す今後のビジネスの理想像を話してもらった。

「インフレが進む今、資産を預金だけで持っていては目減りしてしまうリスクが高まっています。まずはお客さまに資産運用に目を向けていただき、資産をしっかり増やしていただく。あくまでその結果として、私たちも報酬をいただくというのが在るべき姿なのでしょう。富裕層ビジネスと言っても、単に富裕層のお客さまを対象にするというだけではなく、お客さまが富裕層へと成長するお手伝いもする。それが私たちの役割であり、役割を果たして初めて、お客さまに選んでいただける存在になれるのではないでしょうか」(塩田氏)。

「私たちが目指しているのは、金融だけではなく、金融を中心としながらも多様なソリューションを提供できるグループです。営業担当者はそのハブとしての役割を果たすわけですが、何も銀行だけでなく、証券がハブになっても、他のグループ会社がハブになっても構わないのは当然のこと。それぞれがハブとなり、グループのリソースをお互いに活用し合うことで、他の金融グループとは異なるユニークな存在になり得ると考えています」(川村氏)。

ソリューションが増えれば増えるほど、その選択は難しくなり、担当者には高いスキルが求められる。ただし、事例を積み重ねることで選択は徐々に容易になっていき、精度も磨かれていくはずだ。そうした事例の蓄積、共有の土台となるのが、支社体制だと言ってもいいのだろう。東京きらぼしフィナンシャルグループが目指すコンサルティング営業の在るべき姿が、今まさに明らかになりつつあるのかもしれない。