仕事から帰ってきた夫の孝を美紀子は玄関で出迎えた。
「おかえりなさい。ご飯はもうあるから手を洗ってきて」
それだけ告げて美紀子はリビングに戻り、ハンバーグを皿に盛り付けてダイニングテーブルに置く。リビングに入ってきた孝は料理を見て頬を緩めた。
「おお、ハンバーグか。美味そうだな」
孝と結婚して19年になる。出会ったときからハンバーグが好物だと言っていて、それはどれだけ歳を重ねても変わっていなかった。
孝はテーブルに座りリビングのドアに目を向けた。
「汐里は? まだ来ないのか?」
「あの子はお友達と食べてくるから夜はいらないって。だから待たずに食べちゃっていいわよ」
美紀子の説明を聞き、孝は嬉しそうに笑った。
「青春を満喫中ってわけだな」
「まあそうなるわね」
娘の行動が気になる美紀子
高校3年の1月にこんなに遊べるようになるとは思っていなかった。
美紀子は汐里にはどうしても良い大学に進学してもらいたかったので勉強を頑張るようにと小さい頃から口酸っぱく言い続けていた。そのおかげで汐里の成績は常に優秀で、希望していた大学への指定校推薦をもらうことができたのだ。
今は自由登校の期間でもあり、ひと足先に受験を終わらせた汐里は同じ境遇の友達たちと一緒に最後の高校生活を楽しんでいる最中というわけだ。
孝はハンバーグを頬張りながら話しかけてきた。
「珍しいな。お前がそんなに遊ばせるなんて」
「……高校3年間ずっと勉強を頑張ってきたからね。ちょっとくらいの息抜きは別にいいわよ」
「まあな。高校生なんだから遊んでたくさんの思い出を作らないとな」
「……そうね」
美紀子はため息を吐くように言う。
遊ぶのは構わない。ただそれでも気になることがあった。
ここ最近やけにメイクが派手になってきた感じがしていた。青春を満喫することと、羽目を外すことはまったく違う。汐里はそのあたりのことをちゃんと分かったうえで遊んでいるのだろうか。
美紀子はリビングの時計を見やる。21時を過ぎ、何時に帰ってくるのかと汐里に連絡はしているが、返信はまだなかった。
