財政赤字は悪いとはかぎらない
財政赤字に対する考え方に対しても、20年くらい前に全米経済学会で、「財政赤字は悪いことか、それとも悪くないのか」といったアンケートをとると、多くの経済学者が「財政赤字は悪い」と答えていました。
ところが、いまでは逆転していて、財政赤字を悪いとはかぎらないと思っている経済学者が増えています。特に最近の特徴的な動きと言えば、緊縮財政の国として有名だったドイツが、積極財政に舵を切り替えたことです。ドイツが緊縮財政を堅持してきた背景には「債務ブレーキ」と呼ばれる憲法上の規定があります。これは、連邦政府の構造的財政赤字をGDP(国内総生産)の0・35%以内に抑えるという厳しいルールです。
しかし、ウクライナ侵攻、トランプ政権誕生、インフラの老朽化といった未曽有の危機に対応するため、このルールの一時停止や例外規定を適用することになりました。そして、国防やインフラ投資に重点を置き、巨額の財政支出をともなう政策が実施されています。
また、安全保障環境が変化したことで、トランプ大統領は欧州各国だけでなく、日本や韓国にも防衛費のGDP比5%への増額を要求し、アメリカの軍事力に頼らないようにと、各国に自国主義を突きつけています。トランプ氏の行動は、変化する安全保障環境をきっかけにアメリカの負担を減らし、同盟国に自立を促すための「好機」と捉えていると分析できます。このため、どの国も緊縮財政のままだと対応できないので、財政構造を変えていく必要があるかもしれません。
こうした財政を活用することは、2020年以降のコロナショックへの対応でも顕著でした。日本でも大幅に増加したのが、家計や企業への給付金でした。個人への特別定額給付金や中小企業への持続化給付金、雇用調整助成金など、大規模な補正予算が組まれ、巨額の国債が発行されました。緊急事態ということで、財政規律(国や地方公共団体の財政運営が秩序正しく行われ、歳入と歳出のバランスが保たれている状態)の基準が変わったことは記憶に新しいところです。
お金と経済―日本の生産性を高める仕組みと法則―
著者名 永濱利廣
発行元 生産性出版
価格2200円(税込)