ツールとしてのAI
――AIブームと言われる状況下で、数えきれないほど多くの企業がAI活用を謳っています。「AIをただ使っているだけの企業」と「成長に活用できる企業」を見分けるポイントはどこにありますか。
問題は、その企業が顧客に何を提供していて、その顧客がそれに対しお金を払う意欲があるかという点です。AIはあくまでツールであり、そのツールを製品やサービスに組み入れることで、お客様により良い価値を提供し、結果としてきちんと値上げもできている企業は限られています。
具体的な銘柄に言及する前に言っておくと、私たちは他のアセットマネジャーが気にしているいわゆる「打率」のようなものを、過度に重要視してはいません。それよりも大切なのは「どれだけ正しいか」、つまり、当たった時のリターンがどれだけ大きいかです。早期の成長企業を見極めようとする活動では間違うことも多いのですが、少数の大勝者が、多くの敗者の損失を補って余りあるリターンを得ていると考えています。
その上で言えば、例えばトラクターメーカーとして知られるDeere & CompanyはAIを使うことで、農家が殺虫剤の使用量を大幅に削減できる製品を提供しています。あるいは、ShopifyはAIをプラットフォームに組み入れ、加盟店がよりターゲティングの効いたマーケティング活動ができるよう、課金のインセンティブを整えています。DuolingoはAIを活用し、課金ユーザーに対してパーソナライズされたレッスンを生成しています。これらの企業はAIというツールの強みを有効に活用し、顧客体験を向上させつつコストを削減し、収益力を高めていると考えています。
また、地政学的な揺れなどの課題に適応していく術を持っているかどうかも焦点となります。例えば中国のバッテリーメーカー寧徳時代新能源科技(CATL)は、欧州や米国など中国国外に生産拠点を設け、米中間の論争の影響によるリスクへの適応を進めています。私たちが見ているのは、日々ヘッドラインを駆け抜けていくノイズそのものではなく、そうしたノイズを乗り越える企業本来の実力です。
――最後に、日本の投資家へメッセージをお願いします。
成長企業は株価が激しく上下に動くこともありますが、そうした局面でこそ投資家の方々には辛抱強さが求められることになります。株価が下がったからといってファンダメンタルズの良い企業を売ってしまっては、長期的に見て重要な成長機会を逃す懸念があるからです。変化の時期こそ、市場のタイミングを計ろうとするのではなく、ファンダメンタルズに着目して優良な企業を見定め、そこに地道に投資し続ける意義を再認識する絶好の機会と言えるのではないでしょうか。
《インタビュー後記》
長期投資家というと退屈なイメージを抱く人もいるかもしれないが、ファンドマネジャーごと、戦略ごとに異なるカラーがある。老舗運用会社のベイリー・ギフォードは、長期投資の静的なコンテクストを基盤に敷きつつ、NVIDIAなどオーソドックスなAI関連銘柄をしっかり組み込むなど、幅広い投資家のニーズを捕捉するバランス感覚を持っている印象だ。
このところ金融庁は金融機関の提案現場を、長期分散投資の教育を軸とした金融リテラシー向上の前線として位置付けようとしている。とはいえ短期的な市場の動揺やボラティリティの増大に直面した際、金融機関には、顧客の行動を支え、安心させるための具体的なソリューションを提示することが求められる。ダンバー氏が指摘するように、特に成長株投資は辛抱強さが求められる世界だ。刹那的なヘッドラインや地政学的なノイズを完全に無視するのではなく、一歩引いた場所からその影響を冷静に評価し、本質的な企業価値を見失わない運用哲学や具体的な課題解決策を求める声は、前提が揺るがされる時代にこそ一層高まるのかもしれない。
