税制上の後押しを背景に、長期投資の行動様式は国内の投資家の間で定着しつつある。一方で2025年の国際情勢を振り返ると、持続的な成長ストーリーへの確信を揺さぶりかねないイベントが相次いだのも事実だ。世界の“長期投資家”たちは、目下の地政学的な変化やAI企業による株式市場の席捲に、どのように向き合っているのか。英資産運用会社ベイリー・ギフォードのパートナー、スチュアート・ダンバー氏に、変化の中で成長力を維持・強化する企業を探索する同社の運用哲学について、そして見通し難しい2026年以降の市場環境に備え、投資家に今求められるスタンスについて考えを聞いた。

ディスラプション下の投資機会とは

――日中関係の緊張感の高まりなど地政学的な変化もあり、2026年以降の見通しの難易度がいっそう高まっている印象です。

まずあえて強調しておきたいのは、「5年先の展望が描けない株式には投資しない方がよい」ということです。たしかに地政学的な動向は人々の注目を集めやすく、ここ最近であればトランプ大統領の発言などが売買の材料になりやすい傾向が見受けられます。とはいえ結局のところ今後12カ月で市場がどうなるか一体、誰が正確に見通せるでしょうか。短期的な未来を予測するのは誰にとっても非常に難しいという事実を認めることこそを出発点とすべきでしょう。

企業の株価は、今後5年間の事業ファンダメンタルズを反映する――これが私たちの基本的な考え方です。国際情勢の動向に比べれば、特定の企業が生産効率を5%向上したといった出来事はともすると見過ごされがちですが、経済成長や富は最も優れた企業の行動によってこそ生み出されるのです。

――短期的なノイズに惑わされることなく、長期的な成長を見抜く御社の方法論を具体的に教えてください。

世界中で今、過去に例を見ないスピード感でのディスラプション(破壊的な変化)が生じています。これは、成長株の運用者にとって投資機会がそこかしこに転がっていることを意味します。

私たちが日ごろ心がけているのは、他の人々が見ないところに目を向けるということです。成長力のある企業を見極める上では、金融メディアやブローカーだけではない独自のネットワークを活用します。特に、大学の研究者など専門家とのネットワークを重視し、場合によっては科学的リサーチに資金を提供することもあります。彼らとの対話から、ゲノムシーケンシング、バッテリー、そしてAIといった分野を含め、世界で起きている「変革の方向性」について聞き出します。そして変革を利用できる立ち位置の良い企業を探し出し、当社のチームが実際に企業を訪問して、マネジメント層が抱く野心と戦略が私たちの捉えようとしている成長機会と合致するかを見定めるのです。

私どもが投資を始めた頃にはまだそれほど有名ではなかった企業が、今では超大型の銘柄になっているといった例は珍しくありません。たとえばNVIDIAについては2016年、すなわちその社名を誰もが知るようになるよりかなり前から投資を継続しています。