「国内企業に成長資金を提供する」のが、家計に与えられた役割なのか?
ただ、「国内企業に成長資金を提供する」のが、家計に与えられた役割なのかということを、少し考えてみる必要がありそうです。
そもそも家計のお金を国内株式市場に流すことで、企業は成長するのでしょうか。確かに個人マネーが株式市場に流入すれば、株価は上がるでしょう。しかし、それは企業にとって成長の原動力となるのでしょうか。
もちろん株価が上がれば、株式を発行する企業にとっては、増資がしやすくなる、時価総額が増えて敵対的買収がされにくくなる、株式交換によるM&Aが仕掛けやすくなる、従業員のモチベーションが上がる、といったメリットは期待できます。が、このうち企業の成長に直接関係するのは、増資くらいのものでしょう。
増資によって調達した資金を投資に回せば、次の成長につながりますが、それ以外のメリットが企業の成長に直接影響するかと言われれば、心許ないというのが正直なところですし、現状において、成長資金を調達するための増資を、日本企業はほとんど行っていません。日本企業の資金調達は、銀行からの借入と社債発行による部分が多くを占めています。
それに日本企業は、ようやくここに来て、成長につなげるため投資を行うようになりつつありますが、6月末時点の資金循環統計によると、民間非金融法人企業の金融資産総額が1512兆円、対して金融負債は1067兆円ですから、企業部門は差し引き445兆円もの貯蓄超過の状態にあります。「個人マネーを企業の成長のために提供しますよ」などと言ったところで、企業側からすれば、恐らく「大きなお世話」なのです。
つまり、NISAを通じて個人マネーを国内株式市場に誘導したからといって、直接、日本企業の成長につながるとは言い切れない点が多々あるのです。
それよりも、日本企業がこれまで成長して来られなかった原因は、長期にわたって貯蓄超過が続いたことにあると考えられます。
企業部門が貯蓄超過の状態にあるのは、過去において企業が、成長のための投資をしてこなかったからです。そして高市政権は、この貯蓄超過こそが、デフレ圧力と低成長の最大要因と見ており、それを解消するために、企業が安心して投資できる状況を創り出そうとしています。それは、わざわざ個人マネーを日本企業への投資に誘導しなくても、日本企業が積極的な投資を行い、今の貯蓄過剰が解消されれば、景気はより強くなる可能性がある、ということを意味しています。
この試みが成功し、企業の積極的な成長投資によってデフレ圧力が完全に解消して景気が好転すれば、自然と日本企業の株価が上昇へと転じるでしょうし、そうなれば、今は海外に向かっている個人マネーも、徐々に日本株に回帰する可能性が高まってきます。
このように考えると、わざわざ「国内投資枠」を設けて、NISAという制度を複雑にする必要はないと言えそうです。
