「名言」で振り返る、投資手法
バフェットの投資手法は常人でも実行しやすい。なにも特別の才能が必要なわけではない。バフェット自身がこう言っている――「投資は、IQ160を持った人がIQ130の人に勝つゲームではない」。
またチャート読みに勤しんだり、売るタイミングに神経をすり減らしたりする必要はない。毎日枕を高くして、眠れる。多くの人は、日々、いくら儲かった、今月の損益勘定はいくらだったというような、短期売買に日々費やしているのではないだろうか。バフェットは言う。「試合は、フィールドを見ているチームが勝ち、スコアボードを見ているチームは負ける」短期売買に日々費やしている人は、まさにスコアボードを見ているのである。
バフェット投資の核は、会社を所有するという考え方だ。われわれ株主は、バークシャーのオーナーだ。4万人以上集まるバークシャーの株主総会を、バフェットは「ウッドストック*・オブ・キャピタリスト」(*1969年に開催された伝説的な音楽フェスティバル)と言う。一般的にはインベスター(投資家)だが、キャピタリスト(資本家)と呼ぶのだ。またバフェットは、株主を、自分の同朋(パートナー)と見ているのは、娘のスージーの述懐に明らかだ。スージーが「パパにとって、株主は酸素のようなものね」と言うと、バフェットは「いやいや、血液だ」と答えたという。株主は自分の身体に流れている存在というのだ。バフェットが、真にそのように株主を見ているのは、今年の株主総会で、CEO退任を、バークシャー取締役の子ども二人以外に、初めて公表したことでも分かる。株主にとって、これほど光栄なことはない。
バフェットの行動で、最も記憶に残っているのは、リーマンショックの最中、ニューヨーク・タイムズに個人名で投稿したことだ。そのタイトルは「アメリカを買え、私は買っている」。その中で、バフェットは有名な言葉を発している。「人が貪欲なときに恐れ、人が恐れているときに貪欲になれ」――バフェットは、その時、実際にゴールドマン・サックス、GE(ゼネラル・エレクトリック)などに巨額の投資をした。バフェットの投資が、どれだけ信任を与え、人々を勇気づけたことか、はかり知れない。
今年8月で95歳になったバフェット。CEO退任で会長職には残るが、来年の株主総会には、ひな壇に立たず、世界の投資家が楽しみにしていたバフェット書き下しの「株主への手紙」は、来年から次期CEOのグレッグ・アベルが書くという。バフェットの退任を惜しむ声はやまないが、考えてみれば、よく95歳まで頑張ってくれたということだ。筆者の人生にも、はかり知れない教えをもたらしてくれた。心から感謝したい。
びとうファイナンシャルサービス 代表取締役
尾藤 峰男氏
日興証券にて、21年間証券業務に携わった後、2000年7月 びとうファイナンシャルサービス株式会社設立、現在に至る。 金融機関から完全に独立した資産運用アドバイザー(RIA〈公認投資助言者〉)として、お客様から助言料をいただくだけ(フィー・オンリー)で、ライフプランニング、個人の金融資産や退職金の資産運用アドバイスを行っている。CFP認定者、1級FP技能士のほか、グローバル資格のCFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会認定証券アナリストの資格を持つ。米国株投資、グローバルな投資理論や国際分散投資に精通し、またバフェット・ウォッチャーとしても知られる。日本経済新聞、日経ヴェリタス、日経マネー、東洋経済などへ執筆・コメント多数。テレビ東京、日経CNBCなどに数多く出演。著書に「いまこそ始めよう 外国株投資入門」(日経BPマーケティング)、「バフェットの非常識な株主総会」(ビジネス社)。
