同業が苦戦のなか増益計画 トランプ関税を「追い風」と見る理由とは
では本題に迫りましょう。大和工業は、なぜ鉄鋼株のなかでも株価が好調なのでしょうか。
理由の1つと考えられるのが業績です。今期(26年3月期)は、主要な鉄鋼メーカーの多くが減益を見込んでいます。一方、大和工業は前期比6.8%増の最終増益を計画します。大和工業は前期に発生した一時的要因(中東事業の撤退に伴う損失)のはく落も影響するとはいえ、同業では比較的堅調です。
【主な鉄鋼メーカーの予想純利益(26年3月期)】
・日本製鉄:-400億円(前期は3502億円の黒字)
・JFEホールディングス:750億円(前期比-18.4%)
・神戸製鋼:1000億円(同-16.8%)
・大和工業:340億円(同+6.8%)
※いずれも同第1四半期の各社の予想
出所:各社の決算短信
大和工業が堅調な理由が、商材の違いです。大和工業の主力製品は、先述のとおりH形鋼です。建設向けが主な用途で、製造業向けは少ない傾向にあります。一方、高炉が主体の鉄鋼大手は、製造業向けの製品も多く手掛けます。鉄鋼大手の苦戦の一因に自動車業界の不振がありますが、大和工業への影響は軽微だったと考えられます。
もう1つの理由が、トランプ関税の影響差です。米国は18年に鉄鋼製品へ25%の関税を適用し、25年6月には50%へ引き上げました。海外の鉄鋼メーカーにとって逆風で、日本の鉄鋼業にも悪影響が懸念されます。
しかし、大和工業は25年3月期の決算説明会において、トランプ関税を「基本的に追い風」と評価しました。米国において形鋼市況の上昇とシェア拡大が期待されるとの見方です。米国にはパートナーシップに基づく合弁会社があり、輸入が細ることで受け皿になることが期待されます。
実際、米国の輸入は減少しています。米国鉄鋼協会(AISI)によると、米国の25年の鉄鋼総輸入量は8月まで1873万ネットトンと、前年同期比141万ネットトン(7.0%)減少しました。1月は輸入量が同20.2%増と大きく増えましたが、徐々に減少している様子がうかがえます。なお、日本からの輸入は8月までに同10.0%減少しており、全体よりも悪化しています。
これらの要因から、大和工業は鉄鋼セクターのなかでは業績が比較的堅調で、投資家の資金が向かっていると考えられます。