日本政府の借金は、残高が巨額な上に、さらに毎年大きく増加しています。これだけを聞くと、将来に不安を感じる人もいるでしょう。しかし、財政状況としては改善傾向にあると言えます。「毎年借金が増えているのに、なぜ改善するの?」と疑問がわきますが、この傾向はインフレのおかげなのです。今回は、財政状況とインフレの仕組みについて解説していきましょう。

 

日本の財政状況は改善傾向、しかし国民の賃上げ率はマイナスのまま課題を残す

日本の国と地方を合わせた政府の借金は先進国では最も悪い状況です。借金は二つに分けて考えるべきです。毎年の借金額とその結果として毎年積み上がる残高です。

日本の国内総生産(GDP)はざっと630兆円です。そして、毎年の借金の増加額が30兆円前後、借金残高が約1330兆円あります。GDP対比での日本の毎年の借金額、財務残高は、先進国では最も悪い部類に入ります。

ところが、近年の日本の財政状況は大きく改善しています。債務の返済能力は所得に依存します。1億円の借金は、普通の人には返せないような大変なことです。しかし、所得が極端に高い人にとっては、そんなことはありません。所得が50億円ある人にとっては1億円の借金は大した額ではないのです。

近年の日本はインフレのおかげでGDPが大きく伸びました。ここでのGDPはインフレ分を含む名目GDP(国内で生産された財・サービスの付加価値を、該当期間の市場価格で評価した国内総生産)です。日本の債務返済能力を加味した財政状況を示す債務残高/名目GDPでみると、近年は分母が大きく増加したおかげで改善したのです。

この問題が注目されたのは7月の参議院選挙の後でした。自公政権が敗北したことで野党が主張した政策である消費税減税やガソリン税減税が実現すれば、もっと日本の財政状況が悪化する可能性があると懸念されたのです。しかし、7月に格付け会社のS&Pグローバルレーティングは、日本の財政状況にはバッファー(緩衝材)があるため、政策変更で信用力指標が多少悪化したとしても「今後2~3年で格下げにつながるとは考えていない」と発表しました。日本の財政が改善傾向にあることをバッファーがあると表現したのです。繰り返しになりますが、バッファーは主にインフレによって生まれたものです。

このようにインフレは、政府部門には恩恵をもたらしました。では庶民生活への影響はどうでしょうか。個人が抱える住宅ローンについては、春闘での高い賃上げもあり、政府財政と同じで恩恵を受けています。しかし、賃金は違います。インフレを加味した賃上げ率はいまだマイナスのままです。ここに日本経済の課題があります。

 

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