投資信託の「売り時」は、投資家が抱える永遠のテーマの一つかもしれない。特に、NISA制度が恒久化されて以降、非課税で長期保有できる環境が整ったことで、「売る」という行為に対する心理的なハードルが以前よりも高くなっているように感じる。
大前提として、積立投資を成功させるためには、長く続けることが重要だ。時間を味方につけ、複利の効果を最大限に享受する。そのためには、「ほったらかし」が正解となる場面も多い。だが一方で、「売らないこと」そのものがリスクになっているケースも現実には存在する。
「売らないリスク」とは何か
投資の世界では、「損をしないこと」ばかりがリスク管理と考えられがちだが、もう一つ見落とされやすいのが「機会損失」というリスクである。
例えば、相場環境が大きく変化したことで、以前は相性の良かったファンドが、今の局面ではパフォーマンスを出しづらくなっているというケースは決して珍しくない。典型的なのが、低金利時代に強かった一部のバランス型ファンドである。金利上昇やインフレ局面に突入すれば、これまでの強みが逆風に転じることもある。にもかかわらず、「長期投資だから」、「積み立ててきたから」といった理由で保有を続けてしまうと、別の選択肢に乗り換える機会を逃してしまいかねない。
近年は特に、相場環境が変化するスピードが速くなっている。ファンドを「一度買ったら放っておくもの」と一律に捉えるのではなく、「市場との相性を定期的に見直すもの」と捉え直すべき時代に入っている。
インデックスなら「見直し不要」とは限らない
ここで、「わざわざアクティブファンドを選ばなくても、オールカントリーを始めとするインデックスファンドなら、運用者交代のリスクも少なく、安心して積み立てられるのでは?」という指摘が入りそうなので、あえて触れておきたい。
確かに、インデックスファンドの多くは時価総額に応じて市場全体を機械的に反映する仕組みであり、長期投資家にとっては極めて合理的な選択肢といえる。だが、「何も考えずに持ち続けていればいい」と思っていると、資産の偏りに気づかないままリスクが膨らんでいる可能性もある。
例えば、「全世界株式型インデックスファンド」として人気のMSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)も、結果的に米国、特に一部の大型テクノロジー株に組入比率が集中しているのはよく知られている。株価が好調な局面では安心感もあるが、リスク分散という観点では要注意だ。
インデックスファンドは「放っておける」商品だが、「見直さなくていい」商品ではない。目的やライフステージに応じて、売却や組み替えを検討する視点は、どんなファンドでも必要だということを覚えておいてほしい。