日本に足りない投資家の存在

日本人は画一的で抜きん出た才能がないから、という声もある。確かに日本人は目の前の課題解決となると徹底的に突き詰めるのだが、「無から有」を生み出すタイプの研究や技術開発は不得手だという面はあるのかもしれない。テクノロジーや技術を評価できる人材がいない、大学との研究開発がうまく連携できていないという指摘もある。あるいは、ちょっとした思い付きがそれほど大きなビジネスになるとは思わない、奥ゆかしさのようなものが日本人には強いのかもしれない。「あの人どうしているかな」と思い出し、再び〝つながる〞というフェイスブックのビジネスの根幹は、誰も思いつかない発想ではないのではないか。また、アマゾンのそれはヤマト運輸が源流と言えなくもない。「だったらGAFAに次ぐ企業をつくったらどうか」と言われてしまいそうだが、私は日本にGAFAが生まれないのは、発想力の違いによるものではないと考えている。

日本にGAFAが生まれない本当の理由は、日本にお金持ちがいないからではないか。

お金持ちといっても、10億円や20億円の個人資産を持っているという程度のスケールではない。一般に欧米の金融機関が考える超富裕層は、資産が1000億円、2000億円を超える層を指す。それだけの個人資産を持つ超富裕層が日本にはあまりいない。そのため超富裕層ビジネスは、日本では根付かない。ちなみに、そのレベルの個人資産を持つ超富裕層は、米国はもちろんシンガポール、中東、中国に十分にいると言われている。

それだけの資産を持っている超富裕層は何をするのか。人間の生活は、どれほど豪奢にしたとしても、日常生活で使える金額には限界がある。結局、超富裕層が1000億円、2000億円の資産を持ってやることは、寄付や投資ということになる。

しかも個人の投資資金はあくまで余剰であり、それこそ評価損が出たとしても、その評価損を会計上出す必要もないのだから、真のリスクテイカーとなり得る。

これが企業や機関投資家の投資となると、ステークホルダー(利益関係者)を意識すればするほど、失敗を恐れることになるが、個人の資金にはステークホルダーはいないので、当たるも八卦当たらぬも八卦の投資ができる。ベンチャー企業10社に投資して、そのうちの1社がうまくいくだけで相応のリターンが確保できる。そして、そのリターンを次の10社の投資に回せるという、いわばリスクマネーの好循環ができるわけだ。こうした資金があってこそ、ベンチャー企業に十二分な投資資金が回り、GAFAのようなユニコーン企業(評価額10億ドル以上、設立10年以内の未上場ベンチャー)が誕生するエコシステムが完成する。

日本人に天才がいないのではない。いないのは金持ちだ。そしてこうした富裕層をつくることができなかった日本と他国との仕組みの違いこそが、ユニコーン企業を次々輩出できない理由に見えて仕方がない。

金利上昇は日本のチャンス

 

著者名 中空 麻奈

発行元  ビジネス社

価格 1760円(税込)