その選択肢があったのか
佐夜子の言葉に弘美は言葉を失った。
別れるという選択肢が自分の中に最初からなかったことに驚いていた。
昔は健司とイザコザがあるたびに離婚という単語がチラついていたはずだがいつしかそんなことを考えず、こちらが考えを変えることで夫婦関係を続けるという脳みそになってしまっていた。
「……確かにそうよね」
「ってことは考えてもなかったってこと? そんなにおしどり夫婦ってわけでもないでしょ?」
「うん、違う」
弘美は即座に否定した。
「だったらもう離婚した方がいいよ。お父さんさ、絶対に舐めてるって、お母さんのこと」
「舐めてる?」
「そうでしょ。だってそれだけ好き勝手してもお母さんから別れるなんて言われないって思ってるんだから。ちょっとでもそういう気持ちがあるのなら先にお伺いを立てるに決まってるよ」
佐夜子の説明はとても腑に落ちた。
あれだけ好き勝手しているのはそんなことをしても自分の生活には何の支障もないと確信をしているからだ。
何をしても弘美がいなくなるなんて露ほども考えてないということだ。
佐夜子の指摘を聞き、弘美の中に怒りがわき上がってきた。
これは健司に対するものとそういう関係性にしてしまった自分自身に向けられたものだった。