娘も愕然

「ねえ、私も大人なんだから話くらい聞くって。別にそれで何かするとかじゃないし。話をするだけでスッキリすることだってあるんだからさ」

佐夜子の言葉に心が揺らぐ。健司に対する想いは1人で抱えきるには重たすぎた。だからこそ吐き出したいという欲に抗うことができなかった。

「……前にさお父さんが仕事辞めたって言ったでしょ? あれね、私、何も聞かされてなかったの……」

「はぁ⁉ 何それ⁉ どういうこと⁉」

そこから弘美は言葉を選びながら話をしていたのだが、次第にヒートアップしていき蕎麦屋の話をするときには感情を抑えることができなくなっていた。

そんな弘美の説明を一通り聞き終えて佐夜子は怒りの言葉を発する。

「マジ、むちゃくちゃだね……! 前から独りよがりのところはあると思ったけどそこまでだったなんてね……!」

「でしょ……⁉ 付き合わされるこっちのことなんて何にも考えてないんだから。しかもほんの何ヶ月かで蕎麦屋として成功できるって思ってるのがバカみたいでしょ? あんな向こう見ずだなんて私も思わなかったわよ……!」

電話越しに佐夜子はため息をつく。

「それでお母さんはどうするつもり?」

「何かね私に店を手伝えって言ってきたの。でもさ私はしっかりと働いた方がいいでしょ? 最低限の稼ぎがあったほうが夫婦としていいと思ってるのに、あの人全然聞いてくれなくて」

「……何言ってるの?」

「え?」

佐夜子は呆れたように声をかけてくる。

「なんでお父さんなんかと一緒にいるのよ。別れようとかって思わないわけ?」