<前編のあらすじ>

35歳になる営業職の麗香は順風満帆な人生を送っていた。

大学時代の同期・八代という男にストーキングされていることと、無能ながらも男性であり年長者であることから上役の座に座っている上司たちに頭を悩ませていることを除けば……。

そんな麗華はある日、後輩の美弥子からランチに誘われる。聞けば結婚し子供も授かったというのである。麗華ももちろん、結婚願望があった。しかし、いままで「自分に見合う男」がいないことから踏み切れないでいた。

麗華は美弥子の存在に背中を押され、結婚相手探しに奔走する。そしてマッチングアプリで27歳でフリーのコンサルタントとして活躍する薬師という「あたり」の男と出会うのだが……。

前編:ストーカーに無能な上司 悩むアラサーバリキャリ女子が後輩の結婚&妊娠で始めた「上から目線」な婚活の行方

またいた……

ディフェンダーが麗香の暮らすマンションの前に停まる。車内にしみ込んだ夜のために、助手席から覗く薬師の顔は薄っすらと暗い。

「今日も送ってくれてありがとう」

「ううん。おやすみ」

運転席から身を乗り出した薬師が麗香にキスをする。麗香は車から降りて、走り去っていく薬師を見送る。いつもの電柱の陰には、八代が立っている。

きっと今の一部始終を見ていたはずだから、もう八代は来なくなるだろう。自分の出る幕はないと、引き下がるはずだ。

付き合い始めて3ヶ月、薬師との関係は順調だった。ウィットに富んだ会話も、スマートなエスコートも、どれも自分にふさわしいと麗香は思っていた。
特に八代に声をかけることもなく、麗香はマンションのなかへ入っていった。

「とうとう麗香さんも結婚かぁ」

「どうだろうね。まだ気が早いよ」

ランチのポキ丼を食べながら言う美弥子をひとまず否定はしておくが、そう言われることに悪い気はしなかった。
「いや、でもお互い意識はしてるんでしょう? そういう話したりはしないんですか?」

「多少はね。でも別に今すぐどうこうって感じじゃないかなぁ」

「そういうもんなんですね。あ、結婚式は絶対呼んでくださいよ? 全力でお祝いさせてもらいますから」

「分かった分かった」

大して興味なさそうな素振りを見せながらも、麗香はすでにゼクシィを買っていたし、SNSでウェディングフォトなどを大量にブックマークしている。そういうのは面倒だろうと思っていたが、いざ自分がその立場になってみると、案外楽しいものだった。

「いいなぁ、麗香さん。すごく幸せそう」

改めて言われると照れくさくもあったが、美弥子の言う通り、麗香は幸せだった。