経済圏競争のネット証券界でどう強みを発揮するか
ネット証券の多くがそれぞれの属す“経済圏”の中で強みを打ち出し、口座獲得にしのぎを削っている。「PayPayユーザーが約6900万人(2025年5月時点)にのぼるのに対し、PayPay証券の口座数は約137万口座(2025年3月末時点)ですから、まだまだポテンシャルはあります。『PayPayにお金をチャージして決済』、というところから、『資産形成もしてみようか』の領域に踏み出したというのが、今のユーザーのステータスだと思います。こうした方々に、より資産運用に関心を持っていただくには、“失敗させない投資体験”を提供する必要があります。海外の事例を見ても、お金が増える成功体験をきちんと積んでもらうことが勝ち筋だと見ています」。
決済→投資へとステップを踏み、そうした“投資体験”を提供するためのユニークな仕掛けがPayPay証券には3つある。
1つ目が、PayPayポイントを用いた「ポイント運用」だ。日常生活でPayPayを利用した際に付与されるPayPayポイントで投資の疑似体験ができる。実績に応じて増減はあるが、貯まったポイントは1ポイント=1円で引き出し、買い物にも使える。
今年4月には株価が暴落するという、投資初心者にとっては大きな試練があったものの、「『ポイントを原資にした疑似体験だから、心理的なダメージはそれほど大きくなかった』という声も少なくなかった」という。買い物などでPayPayを使った際のポイントなので、たとえ損が生じたとしても、直接、財布の中身に響くようなことにはならない。
そして2つ目が、証券口座を開設したうえでの「PayPayおまかせ運用」で、収益性重視と安定性重視のいずれかを選ぶと、その運用ニーズに合った投資信託で積立投資ができるサービスだ。
さらに3つ目が、ラインアップのなかから自分で投信を選ぶ、ごく一般的な投信購入だ。
ただし、ポイントによる疑似体験から証券口座でのリアルな投信積立の間には隔たりがあるという。「PayPayにおけるポイント運用の利用者は2000万人(2025年5月時点)と着実に増えています。ポイント運用の成功体験を、次は証券口座で実現していただきたいのですが、現状において、なかなかそのシフトが進まない状況です。ここは私たちにとっての課題です」。
打開策はあるのだろうか。「まず資産運用に対するモチベーションを高めることです。そのため、PayPayカードやPayPay銀行、そしてPayPayの利用データを集めていて、そこからお客様のリスク許容度、資産運用ニーズなどに応じた商品提案が行えるようにしている最中です」。
それに加えて、オリジナル商品の提供にも注力していく方針だという。すでにPayPay証券は、三菱UFJアセットマネジメントと共同で、「eMAXIS/PayPay証券 全世界バランス」というオリジナル商品を組成し、PayPay証券の専売商品として提供している。
「投資信託の取扱本数を増やすこと自体は簡単ですが、やみくもにラインアップを増やしていくと、他の証券会社と変わらなくなってしまいます。私たちがこだわりたいのは、オリジナル商品の提供です。PayPay証券でなければ買えない商品を増やすことによって、私たちを選んでいただくための優位性を高めていきます」。実際、投信の取り扱いは134本、日本株も276銘柄とぐっとラインアップを絞っている(いずれも2024年12月末時点)。
黒字化に向けて、「選択と集中」を遂行
最後に、経営の目線でみると、PayPay証券単体ではなお赤字が続く。 それに対してはどうか。「『選択と集中』の施策で取り組んできたことが、徐々に成果を出し始めています。例えば、PayPayを利用することでPayPay証券を認知してもらえることが分かり、従来コストをかけてきたキャンペーンなどのマーケティング費用を絞り込んでいます。このようにコストを下げ、同時に経営計画通りに売上が伸びていけば、数年後の黒字化も十分に可能です」。
インターネット証券会社の勢力図は、SBI証券、楽天証券のツートップに次ぐ “第三極”をめぐる各社のバトルが経済圏競争もともなって熾烈になっている。
マネックス証券、三菱UFJeスマート証券(旧auカブコム証券)、松井証券といったプレーヤーがひしめくなか、PayPay証券が提供する商品・サービスなどの施策は、投資未経験者にどう刺さるのか。新NISA特需が一段落しているなか、今後の動向が注目される。