◆注目市場として条件がそろってきた「欧州株式」
4月の新規設定額で為替ヘッジなしのBコースがトップになった「フィデリティ・欧州割安成長株投信」は、愛称が「テンバガー・ハンター・ヨーロッパ」になっているように、フィデリティ投信の旗艦ファンドの1つである「フィデリティ・世界割安成長株投信(愛称:テンバガー・ハンター)」から分かれた欧州株に特化したファンドだ。すでに、2024年1月設定の「フィデリティ・日本割安成長株投信(愛称:テンバガー・ハンター・ジャパン)」が日本株に特化したファンドとして設定されている。2025年3月末時点でグローバルに投資する「フィデリティ・世界割安成長株投信」の組み入れ上位は、「米国」が47.1%で、次いで「日本」が10.2%、そして、「英国」8.0%、「フランス」3.0%など欧州圏が続く。「日本」も「欧州」も運用チームはグローバルな株式市場をカバーする中で、主要な投資対象として調査をし、投資してきている実績がある。そこから「日本株」だけ、「欧州株」だけを抜き出した運用も可能だろう。
「割安成長株投信」の特徴は、「市場が気付いていない成長機会をとらえて割安な水準で投資する」ことにある。愛称の「テンバガー」は株価の10倍化を意味し、じっくり保有して大きな値上がり益が期待できる銘柄の発掘に徹している。また、グローバルに投資する「フィデリティ・世界割安成長株投信(愛称:テンバガー・ハンター)」が565銘柄に投資しているように、比較的幅広い銘柄群に投資し、中小型株にも積極的に投資する姿勢をとっている。
「欧州株」は、これまで「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」のリーディング地域というイメージが強く、「成長より環境保全」という印象が先行して投資先として魅力的とはいえなかった。実際に投資信託協会の分類で、欧州株式を投資対象にする公募ファンドは54本しかなく、その中には「スイス」、「ロシア」、「東欧」、「イタリア」、「ドイツ」など特定の国や地域を対象にしたファンドも多い。「欧州」や「ユーロ圏」という米国に匹敵するほどの大きな経済圏を対象にしたファンドは意外と少ないのが実情だ。これまで国内の投信市場に「欧州株」が魅力的な市場として意識されなかった結果だろう。
ただ、近年の米国ハイテク企業の躍進に対する欧州企業の出遅れ、また、ウクライナ戦争で明らかになったエネルギーのロシア依存の強さなど、欧州の経済的発展や安全保障の面で大きな変革を迫られている。「ESG」については過度な報告義務等の規制を緩和し、産業育成に重点を置く政策が進められるようになり、安全保障の面では防衛力強化のための大規模な投資が計画された。欧州は変わりつつあり、欧州中央銀行の金融政策も金融緩和に向かっており景気を刺激する方向だ。
特に、財政規律に厳しい姿勢だったドイツが、今後10年で国防費やインフラ投資に1兆ユーロ(約160兆円)の追加投資計画を発表するなど景気刺激策にカジをきった。このため、ドイツの代表的な株価指数「DAX」は5月になって史上最高値を更新する高値に進んでいる。米国の経済見通しの先行きが不透明となり、米国以外の地域に投資先を求めようという機運も高まってきているだけに、「欧州株」は意外と大きな相場に発展するかもしれない。
執筆/ライター・記者 徳永 浩