<前編のあらすじ>

父・田辺弘樹さん(仮名)が亡くなり、年子の兄弟である長男の竜彦さん(仮名)と次男の康介さん(仮名)が相続手続きを始めた。遺産総額は預貯金や自宅、生命保険を含めて2000万円。遺言書には「相続財産は兄弟で半分ずつ」と書かれていたが、ここで思わぬ事実が発覚した。

父親が加入していた1000万円の生命保険の受取人が、康介さんだけに指定されていたのだ。

この事実を知った竜彦さんは「ちょっと待ってくれよ。遺産は生命保険金含めた2000万円だ。それを2人で分けるはずだったのに、康介は生命保険だけで1000万円ももらってるじゃないか」と不平等な相続に困惑を示した。

●前編:【遺産2000万円】兄弟で「半分ずつ」のはずが予期せぬ展開に…生命保険の存在が招いた悲しい相続の結末

竜彦さんからの相談

場所は近所の居酒屋。竜彦さんと私は10代後半から付き合いのある深い友人で、時折この居酒屋で食事を共にしている。

「ってわけなんだが、実際どうなんだ?」

私は竜彦さんから事の経緯を説明された。たしかに、生命保険金は受取人固有の財産だ。原則としてそれは相続財産とは切り離して考える。本件ではやはり、2000万円のうち1500万円を弟の康介さんが相続することになると結論を伝えた。

「やっぱりかあ……」と、竜彦さんは手に持ったグラスを置く。

「まぁでも特別受益ってものもあるんだけど……」と私が続けると彼が食い気味に身を乗り出してくる。

「お⁉ なんだ⁉」

特別受益とは、相続人の中で、生前の故人から特に多く財産を受け取った人などの特別事情のある人がいる場合、そのまま財産を相続することが公平性を欠くような特別な事情がある場合に適用されるものだ。

ここでいう特別な事情はそう簡単には認められない。過去認められたケースでは金額だけで言えば、その額が遺産の60%を超えているような場合ばかりで、今回のように50%程度では認められないケースもある。

私はそう彼に対して申し訳なく答える。

「やっぱりかあ……」

竜彦さんは半ばあきらめたようにため息をつく。

「生命保険金ってさ、基本的にその人の固有のもので相続財産からは切り離して考えるんだ」

それ以降は何気ない世間話をして、お店の閉店時間を迎えたため竜彦さんとは現地解散した。