遺言書を作成することにした竜彦さん
その翌日、竜彦さんから連絡が改めてあった。聞くところによれば自身も遺言書を作っておきたいとのこと。彼はまだまだ若いが、今回の件で自分の死後に妻や子がトラブルになる未来が見えて怖くなったようだ。
そこから何度か質疑応答をメールで重ねて、1カ月ほど後に遺言書を実際に作ることが決まった。私の事務所で遺言書を作り終わった時、竜彦さんから質問があった。
「なぁ、今回の件、どうすれば平和な相続になったんだ?」
竜彦さんのいう平和な相続というのは、生命保険金について未然に対応してトラブル化することを防げなかったのか? ということだろう。
その方法はあるが正直難しい。なぜなら、亡くなった弘樹さんが保険金含め兄弟間で公平になるような遺産分割の内容で遺言書を作るほかないからだ。遺言書の内容は故人が決めるものでそこに相続人たち個人の考えが入る余地はない。
また、仮に公平な相続としたかったとしても正しい法的知識がなければかえって混乱を招くことにもなりかねない。
おそらくだが、今回の遺言書も弘樹さんの考えとしては、兄弟間で差をつけることではなかったのだろう。勉学はあまり得意ではなく、小難しい話は苦手だと大声で笑う生前の弘樹さんの姿を私は思い出す。
きっと、遺言書もなければ兄弟がもめてしまうかもしれない。苦手なお金の計算について必死に頭を回し、「保険金は弟、それ以外は兄」と簡単に相続について決めることを思いつき遺言書を作ったのだろう。
その結果が兄弟間の不公平な相続となってしまったのだが……。
生命保険は保険として優秀な面もある。そのため、生命保険を使わないように……とか、遺産の中に入ってこないように特定のタイミングで解約しておくべきなどというのは現実的ではない。
私は竜彦さんに上記の自身の考えを伝える。
彼はそれを聞き「ありがとう。そうだな、俺も相続についてこれを機会にちゃんと学んでみるよ。遺言書も作ったしな!」と私に元気よく返事をした。