インフレが継続する場合、受取額はどうなる?

昨今、モノの値段が高くなっていく「インフレ」が問題になっていますが、「成長型経済移行・継続ケース」では年率2%のインフレが続くことを仮定しています。インフレが長期化した場合に、年金の受取額の水準はどのようになるかを見てみましょう。なお、インフレ率が2%の世界では、今の20万円は40年後には1.02を40回かけた44.2万円くらいの数字になってしまい、かえってイメージしづらいと思いますので、以下では全て現在の価値で表現した金額を記載します。

5年前の2019年の財政検証では、同じような経済前提(インフレ率2%)で計算した場合には、モデル世帯の受取額は2060年度には32.7万円になると計算されていました。今回の財政検証では2060年度には33.8万円まで増えると計算されています。5年前の財政検証での結果に比べて、少し受取額がアップしていますね。これは、働く女性や高齢者が増えたことと年金の積立金の運用がうまくいったことにより、マクロ経済スライドによる給付抑制が短期間で済むようになったからです。年金のなかでも老齢年金は、長生きとインフレに備える保険です。年率2%というインフレが継続しても、マクロ経済スライドが長期化しなければ、インフレに備える機能が働いて年金の受取額が増えていくということです。このケースでは、2060年度の現役手取り賃金は58.6万円と計算されていますので、受け取れる年金額(33.8万円)は現役世代の手取り賃金の57.6%であり、50%を上回っていることが確認できます。なお、この比率のことを「所得代替率」と言います。

【図表3】成長型経済に移行する場合の年金受給額イメージ

(出所)2019年・2024年公的年金財政検証(厚生労働省)
(注)2019年財政検証はケースⅠ・人口中位、2024年財政検証は「成長型経済移行・継続ケース」・人口中位

失われた30年が今後も続く場合、受取額はどうなる?

では、今後も経済が停滞する場合を見てみましょう。5年前の財政検証で同じような前提(実質経済成長率0%)で計算したときは、モデル世帯の2058年度の受取額は20.8万円まで下がると計算されていました。一方、今回の財政検証の「過去30年投影ケース」(実質経済成長率▲0.1%)の計算では、モデル世帯の2060年度の受取額は21.4万円で踏みとどまっています。なお、この経済前提での2060年度の現役手取り賃金は42.5万円ですので、所得代替率は、年金受取額21.4万円÷手取り賃金42.5万円=50.4%となり、このケースでも現役世代の手取り賃金の半分を超える年金受取額が確保できることが確認できます。

【図表4】経済が停滞する場合の年金受給額イメージ

(出所)2019年・2024年公的年金財政検証(厚生労働省)
(注)2019年財政検証はケースⅤ・人口中位、2024年財政検証は「過去30年投影ケース」・人口中位