社会保障のなかで、とりわけ大規模なものが年金です。若い方にとっては、年金といっても遠い将来のことで、ピンとこないかもしれません。また、中には「自分の頃にはほとんど受け取れないだろう」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。年金制度には「マクロ経済スライド」という仕組みがあり、物価や賃金の伸びよりも年金受取額の増額を抑えることになっているのは事実です。そこで、国民が年金を将来にわたって十分に受け取れるのかを、国が5年ごとにチェックしています。このチェックを「財政検証」といいます。2024年7月に財政検証の結果が公表され、一部では、年金が将来“2割減”になるといった報道もありましたが、その結果をよく見ると、年金のミライはそこまで悲観するほどのものではないと思われます。それでは、チェック結果について見ていくことにしましょう。
財政検証では、4つのケースを想定して将来をシミュレーション
将来の経済環境は誰にも予測ができません。そのため、財政検証では、経済が良くなるケースから悪くなるケースまで、複数のケースを想定して計算されています。今回の財政検証では4つのケースで計算されていますが、経済成長率が一番高いケースと一番低いケースはかなり楽観的なものとかなり悲観的なものですので、それらを除いた「成長型経済移行・継続ケース」と「過去30年投影ケース」がイメージしやすいと思います。そこで、この2つを見ていくことにしましょう。
【図表1】財政検証の前提
(出所)2024年公的年金財政検証(厚生労働省)
(注)各経済前提に対して、人口(出生率・死亡率・入国超過率)についても複数の前提で検証が行われている。
財政検証ではどういう検証をしているの?
年金の保険料水準は固定されています。その代わり、現役人口の減少や高齢化の影響については、受取額を抑制することでバランスをとっています。受取額を抑制する仕組みはマクロ経済スライドと呼ばれます。このマクロ経済スライドは、「今の年金生活者にも受取額を少し我慢していただいて、将来のために積立金としてとっておき、将来受け取る世代の年金額を確保する」というコンセプトのものです。将来世代の受取額確保のためには重要な仕組みですが、いつまでも受取額を抑え続けて将来世代が受け取る頃にも年金が低くなってしまっては元も子もありませんので、マクロ経済スライドは、年金財政のバランスを見て、必要がなくなればその時点で停止することになっています。財政検証では、マクロ経済スライドで受取額を抑制しても「現役世代の手取り賃金の半分は受取額が確保できるか」を検証しています。
個々人の受取額は働き方・暮らし方や給与によっても異なってきます。そこで、財政検証では、単純化したモデル世帯で計算しています。モデル世帯というのは、20歳から60歳までの40年間平均賃金で働く男性と、その間ずっと専業主婦だった女性で構成される世帯です。この世帯が受け取る年金額自体を見てもご自身の受取額を知るにはあまり役立ちませんが、あくまで受取額の水準変化を見るための物差しとして使われています。モデル世帯の受取額は、2019年度は月額22.0万円、2024年度は月額22.6万円です。現役男性の手取り賃金は、2019年度は月額35.7万円、2024年度は37.0万円です。
【図表2】モデル世帯の年金受給額と手取り賃金
(出所)2019年・2024年公的年金財政検証(厚生労働省)