政策保有株は財務面でもメリットなし
そしてもう一つ、取引先どうしで政策保有株を持つ企業の多さです。これがいくつもの問題を抱えています。資本コストの問題ではなく、およそ政策保有株式はいっさい保有すべきではありません。
しかし経営者の中には、資本コストを言い訳にして政策保有株式を正当化する方もいます。資本コストを理由にするのも変ですが、資本コストの意味すら理解されていない事例としてご紹介します。
「持ち合い相手の企業との取引で、こんなに粗利があるんですよ。それが資本コストを上回っているんだから、いいじゃないですか」
しかし資本コストと比較すべきは、粗利ではなく税引き後の利益です。WACC(加重平均資本コスト)と比較するならROIC(投下資本利益率)であり、株主資本コストと比較するならROE(株主資本利益率)です。
あるいは、政策保有株式保有のメリットとして、持っている株の含み益を根拠に資本コストを上回っていると説明する経営者もおられました。
「もう何十年も前に買った株で、当時に比べればずいぶん値上がりしています。これも利益の一部じゃないですか」
しかし、これも違います。資本コストとリターンの関係は、一年単位で計算すべきものです。長期保有による含み益は、そもそも比較の対象にならないのです。それでも利益は利益だと思われるかもしれませんが、そう単純な話ではありません。
そもそも相手の株式を持っていなくても取引でき、株式を持っている理由での取引は全体の一部かもしれないのに、わざわざ全体の取引と関連付けて説明している疑念もあります。
私が指摘したいのは、政策保有株式を持つことで、財務的な影響があり、経営目標としてもROEがぶれてしまうことなのです。有価証券の含み益はバランスシートの右下の「純資産(自己資本)」の部分に計上されます。したがって、含み益が膨らめば自己資本も膨らむし、逆もまたあり得ます。株価は不安定に動くので、自己資本も安定しないわけです。
企業はROEが8%を上回るような事業計画を立てることが至上命題です。ところが、その大元となる自己資本の額が有価証券の含み益によってコロコロ変わるようでは、精緻な計画も目標も立てられないでしょう。常に不透明な要素と向き合わなければならなくなるわけです。
また株である以上、常に含み益があるとはかぎりません。場合によっては株価が大幅に下がって含み損が発生することもあり得ます。そのことは損益計算書に明記する必要があります。その結果、事業自体は黒字でも最終損益が赤字になるという事態になりかねません。2000年代の初めには、上場企業でも本業の問題ではなく保有株式の評価損で減益・赤字となる企業がよく見られました。株主にしてみれば、「なぜそんなものを持っているのか」と文句の一つも言いたくなるところでしょう。
つまり政策保有株は、自己資本が安定しない、損益に影響するなど、本業とは関係ない時価変動により、財務を混乱させるおそれがあるわけです。早く処分するに越したことはありません。
●第3回は【人気の「株主優待制度」だが…モノ言う株主から見れば「不純で、不公平」と懐疑的にならざるをえない2つの理由】です。(10月11日に配信予定)
「モノ言う株主」の株式市場原論
著者名 丸木 強
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