株主の利益を最大限に追及する「モノ言う株主」。

モノ言う株主たちによる敵対的買収がメディアを騒がせることもあり、「強欲」「カネの亡者」とネガティブな印象がつきまといます。一方で近年、モノ言う株主たちが主張してきた企業統治(ガバナンス)の透明性、PBR1倍割れ改善などが実現されてきています。

新NISAが始まり、多くの方が新たに個人投資家となりました。株主となった立場では、これまでのイメージが変わってくるかもしれません。今回は村上ファンド創業メンバーの一人である丸木強氏の著書『「モノ言う株主」の株式市場原論』からモノ言う株主の投資哲学を紹介します。(全4回の2回目)

●第1回:日本初の敵対的TOBはなぜ失敗したのか? 仕掛け人が語る合理性なき逆風の数々

※本稿は、丸木強著『「モノ言う株主」の株式市場原論』(中央公論新社)の一部を抜粋・再編集したものです。本稿の情報は、書籍発売時点に基づいています。

上場企業が不動産賃貸業を行ってはいけない理由

経営改善が遅い、もしくはその姿勢すら感じられない上場企業が存在するのは、そもそも資本コストに対する理解が足りないからかもしれません。そう疑いたくなる例が二つあります。

一つは、賃貸用の不動産を持っている上場企業の多さです。他に資産の使い道がないし、不動産なら安定的な資産になるからというのが理由のようですが、欧米企業ではまずあり得ません。

昨今の相場では、不動産を買って賃貸に回した場合、得られる利回りは都心でせいぜい3~4%程度、地方で5~6%といったところです。これを株式会社が行っているとすれば、その会社の株主の取り分は、ここから法人税を課された後になります。不動産賃貸から4%の収益があれば、税引き後は2%台です。資産運用としては比較的好条件のようにも見えますが、株主資本コストが8%だとすると、この時点で大きくマイナスであることがわかるでしょう。

だから、普通株式を上場している企業が事業として不動産賃貸業を行うことは、ほとんど収益に貢献しません。現実的ではない非常に大きな借り入れをしないかぎり、その事業で資本コストを超えるリターンを得ることは計算上難しいのです。

投資家は、不動産に投資したければ、不動産賃貸業を営む企業の普通株式ではなく、リート(不動産投資信託)を買うのが合理的です。これは投資家の資金にほぼ同額の借入金を加えて不動産に投資し、主に賃貸収入を分配する仕組みです。利益の90%以上を分配する代わりに法人税が免除されるという特殊なルールなので、配当は平均で3~5%と高め。元本はほぼ安全なので、普通株式よりもリスクは低くなります。その分、投資家が期待する収益率(=リートの資本コスト)も低くなるのです。

株式会社が不動産賃貸業を営むと、繰り返しになりますが、株主資本コストを超えるリターンは得られず、株価はPBR1倍を下回ることになります。我々の投資先にもそういう企業がありますが、「資本コスト以上のリターンを生むことは絶対にないので、すぐに売ってください」とお願いしているところです。