次に注目すべきポイントは、相場を見ている人なら誰もが気になる「どこまで下がるのか」という点です。誰もが最も高いところで売りたいと思い、最も安いところで買いたいと考えるのは当然のことです。
この分析のために、よく使われる移動平均という指標を用いました。先ほどの分析で6ヶ月ほどで波の振幅があることがわかったので、6ヶ月の移動平均を取っています。時間軸は2020年からのデータを使用しています。
ここでは2種類の移動平均を使用しています。1つはスポット価格で、これは日々の終値です。もう1つは単純平均で、これは6ヶ月間の終値の平均値です。これらは一般的によく使われる指標です。
さらに、もう1つ出来高加重平均という指標も使用しています。これは、ニューヨーク証券取引所の1日ごとの取引量(株数)を考慮に入れたものです。出来高の多い日を重く、少ない日を軽く扱って平均値を取ります。
これらの指標を用いて分析すると、移動平均のラインで株価が止まる傾向が見られます。2023年8月26日現在で、6ヶ月間の単純平均は105ドル23セントで、前日の株価は約117ドルでした。一方、出来高加重平均は112ドル程度となっています。
この分析を進める中で気になる点が出てきました。単純平均が105ドルで出来高加重平均が112ドルということは、約3%の乖離があることになります。これは、あまり好ましい状況ではありません。単純平均値が高いということは、実体のない、いわば「身のない」相場である可能性を示唆しています。
過去の相場では、出来高加重平均の方が上にあることが多く、それは実際に売買が活発に行われていたことを示していました。しかし、現在は単純平均が上に来ており、これは昔ほど熱心な取引が行われていない可能性を示唆しています。
今後NVIDIAの株価を考える上で、おそらく数ヶ月の間モメンタムは低下していくと思われます。この時に重要なのは、株価の「人気」のようなものです。株価が上がりにくくなる中で、きちんと出来高を伴って値段がついているのであれば、あまり心配する必要はありません。しかし、出来高がだんだんと減少していくような形になると、少し懸念が生じます。
今後NVIDIAの株価を見る際は、日々の出来高を確認することをお勧めします。出来高が減少し始め、同時に株価が下がり始めると、危険信号かもしれません。
出来高加重平均の関係が逆転したのは今年の初め頃からで、株価が140ドルを付けた高値の時期と重なります。株式分割後、NVIDIAの株価は約10倍になりましたが、それ以降、昔ほど激しい値動きが見られなくなりました。
これは、NVIDIAを組み入れるETFの存在や、インデックスへの採用基準といった、企業の本質的な価値とは関係のないルールによって株価が動かされている可能性を示唆しています。つまり、本当のNVIDIAの価値がだんだん見えにくくなってきているのではないかという懸念があります。
半導体業界でよく言及される「シリコンサイクル」との関連については、株価とシリコンサイクルあるいは半導体サイクルは必ずしも一致するものではありません。株価は往々にして先行して動き、時には後から慌てて動くこともあります。この関係性を完全に把握することは困難です。
また、半導体技術自体も進化し、生成AIや電気自動車向けなど、様々な分野に分かれて各々が進化を遂げています。そのため、新しいサイクルを見出す必要があるかもしれません。
最後に、現在の相場状況について注意が必要です。企業のことをよく知らない人々が買い始めると、相場にとって危険な兆候となる可能性があります。ただし、これも相場の一側面であり、市場参加者が入れ替わりながら日々取引を繰り返していくのが市場の本質だと言えるでしょう。
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岡崎良介氏 金融ストラテジスト
1983年慶応義塾大学経済学部卒、伊藤忠商事に入社後、米国勤務を経て87年野村投信(現・野村アセットマネジメント)入社、ファンドマネジャーとなる。93年バンカーストラスト信託銀行(現・ドイチェ・アセット・マネジメント)入社、運用担当常務として年金・投信・ヘッジファンドなどの運用に長く携わる。2004年フィスコ・アセットマネジメント(現・PayPayアセットマネジメント)の設立に運用担当最高責任者(CIO)として参画。2012年、独立。2013年IFA法人GAIAの投資政策委員会メンバー就任、2021年ピクテ投信投資顧問(現・ピクテ・ジャパン)客員フェロー就任。