「新しい資本主義」で分厚くしたいと狙った、“中間層”にまつわる実態
かつて日本は「1億総中流社会」などと言われてきました。そもそも中流の定義自体が明確ではありませんが、いくつかの調査結果を見ても、「中流」と言われてきた人たちが、減少傾向をたどっているのが分かります。
まず国民生活基礎調査による世帯所得の中央値は、1991年が521万円でしたが、2023年には405万円まで低下しました。
また独立行政法人労働政策研究・研修機構が2023年4月に出したディスカッションペーパー「縮む日本の中間層:『国民生活基礎調査』を用いた中間所得層に関する分析」では、中間層の割合が1985年の63.9%に対して、2018年は58.1%まで低下していることが挙げられています。ちなみに高所得層は7.4%から10.3%に、貧困層は11.9%から15.4%に増加しています。
加えて、1980年代中頃から2010年代中頃にかけての中間層の割合の変化を見ると、世界的にも日本の中間層の減少割合が高くなっているのが分かります。具体的な数字を挙げると、
米国・・・・・・▲4.3%
イギリス・・・・・・▲0.3%
ドイツ・・・・・・▲5.0%
フランス・・・・・・3.2%
日本・・・・・・▲6.5%
という具合です。他の先進国で中間層の割合が減少しているのに対し、なぜフランスだけが3.2%も伸びているのか、その理由は分かりませんが、1980年中頃から2010年中頃にかけての約30年間で、日本が他の国に比べて、大きく中間層を減らしてきたことが確認できます。
民主主義が成立する要件のひとつに、「中間層の比率が高い」点が含まれます。逆に言えば、貧富の差が拡大すると権威主義・独裁主義に陥りやすいことになります。したがって、岸田政権の主要政策である「新しい資本主義」は、賃上げによって中間層を復活させ、民主主義を維持することに大義があったと考えることができます。