デフレのなかで積み上げられた内部留保

この要請に対して上場企業の経営者がとった対応は極めて冷淡なもので、いまのところそのほとんどの経営者がダンマリを決め込み返答を避けています。ただその一方で、株式市場では日本企業全体での資本効率や収益性が改善するとの思惑が広がり、海外投資家などから大量の買いが入ってきたことが4月以降の統計からも確認されています。

実はこのタイミングで東京証券取引所が動いたのはわけがあります。下記、図表は東京証券取引所が長期にわたって発表してきた上場企業のPBRのグラフです(PBRとは株価が1株当たり純資産に対して何倍の価値を持っているかを示す指標で、この数値が低ければ株価が割安であることを示しています)。

 

昔はいまのように数値を計算するうえで、加重平均(時価総額を勘案して平均値を計算する方法)型ではなく単純平均型であったり、加えて純資産の計算方法も単体型が中心であったりしたので、連続性には問題が残るのですが、それでも傾向はおわかりいただけると思います。バブルの崩壊後、日本株のPBRは、国際比較しても一つの目安となる2・0倍を超えたのは、2006年1月の1回だけとなっています。

この恒常的な低PBRの背景にあるのが、日本企業の内部留保の多さであることは皆さんも聞いたことがあるでしょう。企業が貯め込んだお金は内部留保として計上されるのですが、財務省が集計している法人企業統計によれば、その金額はすでに500兆円を超えています。経営者にしてみれば、バブルが崩壊し不況が続く時代には、会社の存続のために必死で蓄えることが至上命題だったのでしょう。続いて諸物価が下がり現金の価値が高まるデフレの時代が訪れると、現金の相対的価値が高まるのですから、蓄えることに大義名分が加わりました。暗黙の裡に経営方針になってしまったのです。

ところが投資家にしてみれば、これは容認できない話です。会社の利益は経営者だけのものではないのですから、将来のために使わないのならもっと配当を増やして株主に還元しろと迫ります。労働者は労働者でもっと給料を上げてほしいはずです。しかし経営者は倒産が怖いからと内部留保にばかりお金を貯め込んでいく。

原理原則からすれば、こうなると株主が動くしかありません。なぜならば、株式会社は株主が所有するものなのですから、株主総会で純資産はすべて株主のものだと経営者に直談判すれば、最終的には株主に従わざるを得ないからです。

●第2回は【「日本株投資のロードマップ」3度目の大規模な外国人の日本株買いが意味するものは?】です。(8月6日に配信予定)。

野生の経済学で読み解く 投資の最適解

 

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