今、日本経済は大きな転換期にいます。

長年悩まされてきたデフレを脱却し、インフレに突入しました。そしてマイナス金利解除、急変する為替、海外投資家の増加など、新しい流れのなかでこれまでの投資戦略が通じにくくなっています。

伊藤忠を経て、国内外の金融機関を渡り歩いてきた金融ストラテジスト・エコノミストの岡崎良介さんは、これからの時代は「短期トレードよりも長期ポートフォリオ」「すべての〝資産〟の価値が上昇」と言います。豊富なデータを基に、インフレ経済の投資戦略を紹介してもらいます。(4回目の1回目)

※本稿は、岡崎良介『野生の経済学で読み解く 投資の最適解』(日本実業出版社)の一部を抜粋・再編集したものです。本記事の情報は、書籍発売日(2024年1月)に基づきます。

長期的な視点 2つの正常化への道

日本銀行は、2016年1月28、29日の政策委員会・金融政策決定会合において、「マイナス金利付き量的・質的金融緩和政策」の導入を決定しました。ここでいう「マイナス金利」とは、金融機関が保有する日本銀行当座預金の一部に0・1%のマイナス金利を適用する、という政策です。

そもそも金融機関は「準備預金制度」に基づき、他行との取引の決済をスムーズにするため、日本銀行の当座預金口座に一定の準備預金を預け入れることが決められています。

準備預金はあくまで一定水準でいいのですが、日本の金融機関の場合、ありあまる預金量に対して貸出先や投資先が限定的であるため、従来からこの準備預金の最低金額を超えて日本銀行に預けているケースが多くみられました。

この一定水準を超える預金を超過準備と呼ぶのですが、マイナス金利政策は、この超過準備に付く金利をマイナスにする政策です。何のためにこんなことをやっているのかというと、マイナス金利だと、通常なら支払われる利息が逆に徴収されることになりますから、金融機関は日本銀行の当座預金口座にあった資金を、貸し出しや投資に回そうとする動機が働き、これが日本経済にプラスに作用すると日本銀行が考えたからです(しかし実際は、目論見とは逆に日本の金融機関はますます貸し出しや投資に消極的となり、先ほどのデフレの時代の国民のように、縮小の道を選んでしまいました)。

マイナス金利が解除されることは、短期的には金融機関にはプラスの効果をもたらします。このことを囃し立てて2023年の日本の銀行株は総じて随分と株価が上昇しました。しかし銀行株の真価が問われるのは、ここからです。銀行株の収益を簡単な式で表せば、金利×貸出(投資)先、ですから、マイナス金利解除後の金利がどうなっているのかと、何よりも貸出先、投資先が拡大しているかどうかで収益は決まります。これらはひとえに日本経済、ひいては世界経済がそのときどうなっているかにかかっていますから、いま判断を下すのは早計です。

いずれにせよこれが一つ目の正常化への道なのですが、実は我々が考えなければならないテーマにもう一つの正常化問題があります。それは何かといえば東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)の低迷する上場企業に対して、改善策を開示・実行しなさいとの要請を行なったことです。この要請の詳細は、2023年3月31日に発表した、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」のなかにしっかりと書かれています。