鳴りやまない電話

本来なら喜び勇んで銀行に行き、宝くじと現金を交換し、配当金の1000万を受け取っているはずだった。しかし3週間がたっても、当選した宝くじは引き出しにしまったままになっていた。

麻里子と信之は無言で食事をしている。娘の一美は友達と遊びに行くと言って、出掛けてしまった。ちなみに宝くじが当たったことはもちろん一美に伝えたが、驚いたのは最初だけだった。次の瞬間には「お金の使い方間違えるとヤバいよ」と、冷静に麻里子を諭してきた。昔から何か悟りを開いたくらい落ち着いた子だったが、実際、一美の言ったことは正しかった。

信之のスマホが鳴る。信之は画面を見るや舌打ちをして無視をした。鳴り続ける携帯に麻里子はいら立ちを募らせた。

「出なさいよ。出て、はっきりと断ってやればいいのよ」

「何回も断ってるよ。でも、しつこいんだよ」

苦々しい表情で信之はスマホをにらむ。電話の相手は恐らく親戚の誰かだろう。義母の妹の娘か、信之の兄夫婦か、どちらにしても用件は分かっている。麻里子は深くため息を吐いた。

「だから言ったのよ、ベラベラ言うなって」

「俺だって母さんがこんなにおしゃべりだって知らなかったんだよ!」

宝くじの当選が義母に伝わると、義母は手当たり次第、親戚に電話をして回ったようだ。結果、数多くの親戚から信之の携帯に電話が掛かってくる。

もちろん、ほとんどがお祝いの連絡だ。しかし中にはお金の催促に来るものもいた。そしてそういう連中はとにかくしつこい。どれだけ信之が断っても、何度も連絡をしてくる。

「この家、大丈夫よね? 住所、バレてないよね?」

「それはさすがに大丈夫だろ。あの人たちだって、いきなり突撃してくるようなことはないって」

「本当かな……?」

日に日に不安が募り、まだ銀行で配当金を交換をすることすらできていなかった。