「日銀はもう今までのように国債を買ってくれない」不安が債券価格下落の原因?
では、どうして長期国債を売る投資家が増えているのでしょうか。
最大の原因は、日本銀行が長期国債の買い入れを減額してきたことです。これまで日銀が買い入れてきた国債の総額は、2016年が過去最高の119兆2416億円で、2023年のそれは113兆9380億円でした。ちなみに2022年は111兆607億円です。
これらの金額は、すべての年限の国債を対象にしたものですが、日銀は5月13日に買い入れる予定の、残存期間5年超10年以下の国債について、前回に比べて500億円を減額した4250億円としました。
日銀がどのくらい国債を買ってきたのかについては、「資金循環統計」の国債等の保有者内訳に構成比が時系列で記載されています。国債・財投債に限った構成比を見ると、日銀のそれは2010年12月末時点が7.90%で、その後、徐々に上昇し、2012年6月末に10.20%、2014年9月末に21.20%、2015年12月末に31.41%、2017年6月末に41.27%となり、直近の2023年12月末には53.78%まで上昇しています。
対して保有構成比が大きく低下したのが銀行で、2010年3月末時点では40.27%を保有していたのが、2023年12月末には8.58%まで低下しました。
なぜ日銀がここまで長期国債を買ったのかというと、いわゆる「量的・質的金融緩和」によるものです。2013年4月の金融政策決定会合で導入が決定され、長期国債と共にETFやJ-REITまで日銀が買い入れていったことは、記憶に新しいでしょう。何が何でもデフレから脱却するという、政府・日銀の強い“意思表示”であり、それを通じて市中に多額の資金がばらまかれました。
しかし、なかなか消費者物価指数が目標値の2.0%に達せず、2016年1月からは「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」が導入されるなど、量的・質的金融緩和は長期にわたって続けられ、同時に日銀は多額の長期国債を、市場から買い入れることを余儀なくされたのです。
その結果、日銀の国債・財投債の構成比が、53.78%という極めて高い数字にまで達しました。ちなみに2024年3月末時点において日銀が保有している国債の残高は、短期の資金繰りのために発行する国庫短期証券も含めて589兆6634億円にもなりました。
その日銀が、ある日突然、「もうこれからは今までのようにたくさんの国債は買いませんよ」などと言い出したら、どうなるでしょうか。
今までは、「日銀が国債を買ってくれるから大きく値下がりすることはない」と安心して国債を買っていた投資家も大勢います。ところが、日銀はもう今までのように国債を買ってくれないとなれば、需給が緩みます。さらに先を読めば、日銀が買わなくなるだけでなく、保有している国債を売却することも考えられます。
しかも、国債の最大保有者である日銀が売り始めたら、それを誰が買うのかという問題が生じてきます。新たな受け皿が見つからなければ、長期国債の債券価格は大きく下がり、長期金利は大きく上昇します。そのリスクを察知した投資家が、少しずつ売り始め、徐々にではありますが、長期金利に上昇圧力がかかってきていると考えることもできます。