立体的にサービスを設計し
顧客のポートフォリオの改善へ
このように、投資経験の浅い資産形成層をボリュームゾーンとしつつも、投資経験の長いシニア層をはじめ多様な層が活発に動き出した結果が、数字にも表れてきているのは間違いない。
一方で、同社が重視してきたのは「継続」であるだけに、それぞれの層に合わせたサポートをどうしていくかが、新たな課題になってきた。中でも、「お客さまのポートフォリオを改善する取り組みを、これから本格的に進めていきたい」と久保田氏は意欲を見せる。
ここ数年の好調なマーケットを背景に、リスクが偏っている顧客は少なくない。しかも、大半が大きな下落を経験していないため、今後、何らかのショックがあれば投資を継続できなくなる危惧があるというわけだ。
前述の「かんたん積立診断」もそうしたポートフォリオ改善の施策だが、もうひとつ、注目すべき取り組みが昨年12月にスタートさせた「withアドバイザー™」である。これは楽天証券の専任アドバイザーが、ポートフォリオの診断からライフプランニングまで、顧客のさまざまな相談に乗り、オンラインでアドバイスを提供するというもの。現状、チャットを通じた相談は同社の口座の保有者であれば誰でも可能で、1000万円以上の資産を預けている顧客などは、オンライン面談で相談できるサービスになっている。サービスのスタートから1カ月で予約稼働率が8割、顧客満足度も9割を超えるなど、評判も上々だ。
この「withアドバイザー™」はまだ試行段階とも言え、現在は無料のサービスだが、将来的には有料化も検討されている。また、今年3月には、楽天証券がフィデリティ証券の個人向け金融商品販売事業を譲り受け、2025年1月にすべての預かり資産が移管されることがリリースされて業界の話題となった。フィデリティといえば、米国では運用会社の顔とともに、金融プラットフォーマーの顔を持つが、そのノウハウと「withアドバイザー™」を「融合、拡大させていくことも考えている」という。
これまで楽天証券では、IFAビジネスを中心に対面チャネルにも注力してきた。「withアドバイザー™」はリモートではあるものの、自前の対面チャネルでもあり、同社にとっては大きな一歩を踏み出したことになる。加えて、今年4月からはみずほ証券との共同出資による新会社「MiRaIウェルス・パートナーズ」も営業をスタート。みずほグループのコンサルティング力などを活かした新しいIFAであり、楽天証券の対面チャネルはさらに拡充された。
始めて続ける仕組み作りが
プラットフォーマーの使命
新NISAで顧客の裾野が大きく広がり、顧客層の多様化も進む中、「より立体的なサービス設計をしていく必要がある」と久保田氏は話すが、その体制が徐々に整いつつあると言えそうだ。イメージとしては富裕層や純富裕層をIFAが担当し、アッパーマス層を「withアドバイザー™」が、マス層のフォローはAIなども活用してオンラインで効率的に行うという形だろう。
「『withアドバイザー™』で開発したツールをIFAの皆さまと共有したり、あるいはどうしてもリアルで対面したいというお客さまを紹介したりと、今後はそれぞれの連携も深めていきたいと考えています。せっかくこれだけ投資を始める方が増えたわけですから、一過性のブームに終わらせてはいけない。始めるだけではなく、続けていただく仕組みを私たちが作っていく必要があり、それこそが私たちが目指すプラットフォームの役割です。IFAの皆さまとも一緒になって、新しいビジネスモデルを確立させていきたいですね」
従来のネット証券は投資の「入口」での利便性の向上に注力してきた感もあるが、楽天証券は入口以上に「継続」を重視し、顧客の資産形成を長期でサポートする方向へと大きく舵を切ったことになる。それはまた、収益の低下が懸念される現在の資産運用ビジネスにおいて、収益性を高めるチャンスにもなるはずだ。
同社の楠雄治社長は、その目指すべき姿として米国のチャールズ・シュワブの名をしばしばあげてきた。シュワブ社はネット証券からスタートしたものの、その後は資産管理業務に注力し、米国屈指の大手証券会社、プラットフォーマーへと成長したことで知られる。楽天証券にとって、新NISAのスタートは大きなビジネスチャンスであるとともに、ネット証券の枠を超えた金融プラットフォーマーへと進化を遂げる転換点になるのかもしれない。