定額取り崩しに大きなリスク

問題は、当然ながら運用結果は時期によりまちまちであること。特に怖いのが、取り崩し時期の前半に資産価格が大きく低迷することです。そうなった場合にリスクが大きいのが、定額で取り崩す手法です。

資産形成期の積み立て投資では、定額で積み立てることに利点がありました。安いときにたくさんの量を買える一方、高い時期には買う量を抑えられた結果、同じ量を買い続ける場合に比べ平均取得価格を抑えることができました。

しかし、取り崩しではこれが逆になります。定額で取り崩すと、本来ならたくさん売りたい価格の高い時期に少しの量しか取り崩せず、本来ならあまり売りたくない価格の安いときに多くの量を売らなければならないからです。

このため取り崩しの初期に価格が低迷してたくさんの量を売ってしまうと、その後価格が戻ったとき、すでに保有資産の量が減ってしまっているために恩恵をあまり受けられないということが起こります。

図表7の線②は、初期に価格が低迷した場合の4資産分散の架空の値動きです。最終的な上昇率は①と同じです。ただ当初の2年間に価格が2割ずつ下落し、その後は回復して2022年末には実際の4資産分散での上昇率に一致する「当初成績不振」のケースです。このケースで年に120万円を取り崩すとどうなるでしょうか。

当初は成績不振でも最終的な価格は線①と同じなので、年120万円の取り崩し結果も同じかというと、そうではありません。当初成績不振のケースで120万円ずつ取り崩すと、せっかく運用しながら取り崩したのに、96歳時点の資産は1100万円強と、実際の値動きの場合に比べ大幅に少なくなっていました(⑤の線です)。

前半の大きな取り崩しで資産が大きく減ってしまっているので、後半に価格が上昇しても恩恵を受けづらかったのです。

このように、最終的な騰落率が同じでも前半に価格が低迷すれば取り崩し後の資産が減ってしまうことを「シーケンス(順序)リスク」または「収益率配列のリスク」と呼びます。途中の値動きの順序によって結果が変わってしまうからです。

【間違い】
資産の取り崩しも定額で行うと有利だ